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05/29/09:36  陽だまりの仔 5

ろくな反応も示せないまま、ただ立ち尽くした俺の視界の先、グッと陽の色をした瞳が細められた。
だが直ぐにパッと丸さを取り戻すと、奴は何故かニッコリと微笑んだ。
そして何も言わずに俺の前へと飛び降りてきた。
光を孕ませたその身を、しなやかに動かせながら・・・。

 

『カガリだ!』
そう言って笑ったアイツの顔が、フッと浮かんでくる。
今日も快晴、外は眩いばかりの陽光が煌いている。
俺はいつもの場所にてまどろみながら、この間の出来事を思い出していた。

 

そう、あの日・・・。
スタスタと鼻先まで歩み寄って来たソイツは、至近距離にて俺の事をジッと見つめてきた。
その揚々とした態度に、二重に戸惑ったこの胸!
何より、煌く双眸は勝気そうで、手強そうだと思えたから。
・・・コイツ・・・!?
胸に宿った不和感。
大体、最初の一声からして気に喰わなかった。
『ヨッ!』だなんて、ちょっと馴れ馴れし過ぎだろう?
挨拶たるもの、相手を顕す基本だ!
いけ好かない奴とまでは言わないが、どうにも自分の感覚と合わない気がした。
だからそのまま、しばらく何も言わず見つめ返していればだ。
やがてアイツの方がゆっくりと目を逸らし、主人達の方へと顔を向けた。
その明らかに自分から意識を背けた姿に、俺はやや優位に立てた気がして・・・。
しかしこの直後!
当のソイツは、微笑み見つめている飼い主等を確認した後、再び俺へと向き直ってきてだ!
そして数秒後、なんと自分の脇を掠めてトコトコと奥に歩み行こうとするではないか!
・・・なっ・・・!?
この行動に俺は目を瞠り、そしてムッとなっていた。
此処は俺のテリトリーだぞ!
それなのに!?
『何処へ行くんだ?』
思わず声をかけた。
だがソイツは歩みを止めず、尚も奥へと向かい歩み行こうとする。
『おい!?聞こえないのか?』
更に顔を顰め声を荒げれば、ようやく動きが留まった。
そしてやや離れた所にて、此方を振り返り見てきたあの瞳!
それはやはり今日のこの陽射しの如く、眩い光を放って見えた。
キラキラキラキラ。
けれど苛立っていた俺は、尚も何をか言い告げようとしてだ。
『ようやく口を開いたな。』
いきなりそう言うと、呆れた顔つきをしたアイツ。
『何にも喋らないから、てっきり私には興味が無いのかと思ったんだ。』
三度、俺は言葉を失っていた。
正直、自分の感覚や概念を越えた存在だったと思う。
そう、俺はアイツの言葉にただただ呆気に取られていた。
いや、鮮やかに自分を見つめた、金色の珠に・・・。
・・・今頃、アイツは何をして居るだろうか?
ふとそんな事を思い、俺は苦笑する。
妙に気が強くて明るくて、けれど何処かおっちょこちょいで・・・目が離せない奴。
何故だろう、考えるだけで可笑しく思えた。
俺と同じで日向ぼっこか、それとも・・・?
「アスラン、ご飯だよ!」
その時、呼ぶ主人の声がして、俺はピクリと耳を動かした。
気が付けば陽も傾き、辺りを覆う光の色が変わりつつある。
内心『あれ?』と驚きつつ、のっそりと腰を上げた。
どうやらボーっとしていたようだ。
もう夕暮れ時。
トコトコと食事場である台所の脇へと向かい行けば、皿を片手に佇む主人の姿が見えた。
これに俺は、『来たぞ』と一啼きしてみせる。
何処か間の抜けたような声が出た。
「はい。どうぞ!」
やがて目の前に置かれた食事の器。
たるく目をやった俺は、今だ空腹感には至らず、緩慢な動きで顔を近づけていった。
だが・・・直後に鼻を襲った臭いに、『ウッ!?』となり、ギョッと目を瞠る!
これは何なんだろう!?
漂う異臭に、思いっきり顔を顰めた。
いや、いつも食べている食事と似ては見えるものの、この独特な臭いは明らかに違う物であろうと思われたから!
・・・どうなんているんだ!?
俺は非難の気持ちを目一杯込めて主人を見やる。
そして大きく一啼きした。
すると脇でしゃがんでいた主人は『ん?』という声を発し、緩やかに俺の方を見やる。
「何、アスラン?どうかした・・・?」
しかし肝心の主は、未だこの違いに気付いていないらしい。
いつも以上にたるんだ眼差しでもって、自分を見つめている。
まぁ、この状態になってもう久しいから、敢えて突っ込みを入れる気にもならないが・・・!
・・・この食事は何なんだ!?
ジッと恨みがましい目で見上げてやる。
「ホラ、早くご飯を食べちゃいなよ?」
だが未だ気付かない。
尚もそんな事を口にして、ニッと要らぬ笑みなどを浮かべるコイツ。
そのまま動かず、唯ジッと自分を見つめた俺に、ようやく妙だと気付いたらしい。
『あれ?』と小首を傾げると、主人はその目を瞬き、ややあってからパッと眼下の皿へと目を向けた。
そしてグッと顔を顰めると、皿を手に取り、それから台所の方へと向き直る。
「あ・・・あぁッ!ごめんアスラン!間違えた!これ、キャットフードじゃなくてサバ缶だ!」
叫びわたわたとレンジ台の方へと戻っていくその背を見送りながら、俺は深く息をついた。
ったく・・・!
しっかりしろよな?
どうにもこの間の来客以来、可笑しな状態が続いている主人に呆れと・・・それから微かな同情を覚えたのだ。


 

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05/29/09:35  陽だまりの仔 4

二人は紅茶を飲みながら、長閑に会話を弾ませていた。
どうやら気は合うらしい。
当初からにやけ顔の主人の隣で、楽しげに微笑む客の姿。
「これは?」
「あぁ、それは僕が作ったペットロボだよ。一応ハムスターなんだけれど・・・。」
「まぁ、ふふ、可愛い。でも、酷く傷んでみえますね?」
「それは・・・いつもアスランにやられちゃうから。」
だが此処で不意に自分の名が上がり、此方を見やってきた4つの瞳に俺は『う!』と意識を呑まれる。
「あらあら!」
更にそんな高音を挙げた客の声に、背筋がグッと後ろに反った。
「何て素敵な毛並みをしたネコちゃん!」
「でしょ?」
主人は得意気に頷くと、俺に向かい『御出で、アスラン?』と声をかけてきた。
いつにも増して満面の笑みで、自分に向かい両手を差し伸べながらだ。
だが俺は動かない。
「どうやら、警戒されているようですわね?」
「ごめんね。どうも人見知りする仔でさ。」
そう言って、主人はトコトコと歩み寄ってくると、フワリと俺を抱き上げようとした。
これに俺はその場に爪を立てて抗おうとする。
だが力では勝てる筈も無く、止む無く客の面前へと連れて行かれる!
「ほらアスラン?お隣のラクスだよ!」
「はじめまして!」
微笑む客を前に、ただただ身を固めた。
グッと近づいてきた丸く大きな青い瞳を前に、息すらも詰める。
そして伸びてきた細く柔な掌、それを大きく訝しみながらだった!
「賢そうな顔。アスランはプライドが高そうですわね。」
心地良く頭部を撫でる彼女の手と言葉に、低くしていた頭をやや持ち上げる。
どうやら悪い奴ではないらしい。
煩わしくない声や雰囲気に、少しずつだが気持ちが溶けていくよう。
何より、主人よりも気の利く人間かもしれない。
そんな風に思いながらも、俺はいやいやと気を引き締めなおす!
視線の先にあるのは、客の持ってきた四角い箱。
其処の中で蠢く何かを、自分はただただジッと見据えて・・・!


  
  
  
「気になってるみたいだね?」
そんな俺を見てか、主人はフフッと笑った。
「アスラン、仲良くして下さいますか?」
自分を撫でながら、そう告げる客。
そして柔らかな声で、彼女はその箱の内に居る『何か』に向かい話しかけた。
俺は主人の手で降ろされた床の上から、息を殺してソファーの上を見据える。
どうやらあの箱を開ける気らしい!
この飼い主からして、然程妙なモノを連れては来ないだろうが・・・。
そんな風に思いつつも、顔はグッと強張っていく。
そう!何事も最初が肝心なのだ!
どちらが上か下か優劣が決まるのだ!
前回の轍を踏まぬようにと、ゆっくりと腰を落とす。
万が一あの銀色の毛むくじゃら犬みたいなやつが飛び出てきたとしても、直ぐに対処できるように体勢を整えてだ。
「いらっしゃい、カガリ?」
カチリという音を立てて、開かれていく箱。
果たして、白か黒か茶色かそれとも銀色か・・・!?
息を呑む俺。
そして・・・先ずゆっくりとこの目に見えたのは、尖がった耳の先だった。
更にその頭部が、そして長くふわっとした尾がしなって見えて・・・。
・・・あれ?
どうやら異種ではないらしい。
大きさは自分よりもやや小さめ。
綺麗なシルエットをしていた。
けれど・・・?
飼い主である客の方をジッと見やったその瞳の色は!?
・・・あの時の奴、だよな!?
そう、間違いない、以前に見かけた陽だまりの仔であろう!
俺は『あ』という形に口を開けたまま、現れ出たソイツの事を見上げていた。
真っ直ぐに透き通った双眸は、陽の色。
白いソファーの上で、その被毛の色もまた実に鮮やかに映えて見える。
「うわ・・・!」
「アスランと同じ歳でカガリと申します。」
「光の所為でかな?毛が金色に見える!」
「鮮やかでしょう?私も最初この仔を見た瞬間に目が釘付けになってしまいました!」
そして俺同様に呆けた顔で口を開く主人。
その中で、当のソイツはちょこんと前足を揃え、キョロリと辺りを見渡していた。
「カガリ、此方はキラと言います。優しそうな方でしょう?」
客の言葉に、我が家の主へと金色の瞳が向く。
「そして此方がアスラン。」
次いでゆっくりと此方を見やってきた客を追う様に、あの瞳が此方を向いた!
その瞬間に、俺はグッと両目を見開く。
ピリリと身体に何かが走り、初めて見かけた時と同様、ドクンと鼓動が跳ねる。
鮮やかな色彩。
とにかく真っ直ぐな眼差しだった。
あぁと胸の中で声が出る。
そして言葉無くその瞳を見つめた。
本当に、何て眩いんだか・・・!と。
だがこの一瞬後、自分はまた違う意味で目を瞬いていた。
するとソイツはあれ?という感じで小首を傾げると、再びあらぬ声を発した。
予想だにしない衝撃。
それは視覚とのギャップの所為なのか、それとも単に感覚の違いからなのか?
・・・『ヨッ』って、何だ!?
ただただ息を呑み見つめる俺の視界の先、眩い陽だまりの仔が動き、そしてこう告げた。
「何だよ?聞こえないのか?」
キンとした声が耳に響く。
高くはないけれど、そう、何処か落ち着かない声音だった。
「私の名前はカガリだ!宜しくな!」
これが輝く被毛をしたソイツと俺との、最初の会話。
第一印象とは全く逆の、衝撃的な再会だった。



 

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05/29/09:32  陽だまりの仔 3

その日、朝から主人の様子は可笑しかった。
いや正確に言うならば、数日前からであろうか?
いつにも増してドタバタとしているその様に、俺は訝しい眼差しを向ける。
果たして、何が起こっているのやら・・・?


滅多に見ない真剣な面持ちで、主人は部屋の中を縦横無尽していく。
そして驚くべきスピードでもって、整然としていくリビング内。
「この雑誌はあそこに仕舞って!これは・・・!」
俺は動く主人を高場から眺めつつ、フムと独りごちた。
この状況はもしかしてもしかすると、来客があるのだろう。
しかしまぁ、こうまでして動いている主人というのは非常に珍しい!
余程気合が入っているとみえる。
面白可笑しく見物しながら、俺は前足を舐め、そして顔を拭いた。
いやはや、物で溢れかえっていた辺りがスッキリとしていく様は、実に爽快!
その快適性に、気持ちは上昇しつつだった。
・・・果たして、どんな来客であろうか?
ふと思い、俺はくねらせていた尾をパタリと止める。
そういえば、一度、主人と同じカイシャであるという、金髪に色黒な肌をした男がやって来た事があったな。
思い出した事柄に、一転、ブルルと背中の毛が逆立つ。
そうだあの日、何と相手の男は、あろう事か銀色の毛並みをしたギャンギャンと五月蝿いヤツを連れて来たのだ!
大きさは自分と然程変わらなかったものの、明らかに異種な生き物。
本当に思い出すだけでも身の毛がよだつ!
此処は俺のテリトリー内だというのに、やたら滅多ら『貴様は何なんだ!?図々しい猫め!』と五月蝿く吠えかかってきてだ!
『オイオイ、頼むぜイザーク。仲良くしろよな?』
宥めすかそうとする向こうの飼い主の言葉も虚しく、俺は止む無くベランダに退避した。
あんな事は二度と御免だ!
一転して鈍よりとした胸の中、俺はジトリと主人を見やった。
果たして、今日の来客はどんなヤツなのか?
「うわっ、不味い!もうこんな時間!?」
相も変わらずドタバタしている主人へと向かい、一つ大きな溜息が出た。
頼むぞ、おい?
伝わるわけも無いとは思いつつも、胸の中で呟かずには居られない。
そうしてカチコチと部屋の時計だけが、テンポ良く針を進めて行ったのだ。


ピンポーンと軽快に鳴ったインターフォンに、ピクリと俺は顔を動かす。
何とか掃除を終えてひと寛ぎしていた主人もまた、ハッとその身を起こしていた。
どうやら客が来たらしい。
「はいはい!」
今までに無い素早い動きでもって、主人は玄関へと向かっていった。
その姿に俺は大きく顔を顰め、一つ大きく息を吐く。
浮かれているのか、それとも緊張しているのか?
主人の様に、何とはなしに胸がざわめく。
「お邪魔致します。」
やがて凜としながらも柔らかな声音が聞こえ、ドアが閉まる音がした。
そして感じ伝わってきた不慣れな気配と匂い、歩み来る足音に、俺は意識を研ぎ澄ませる。
果たして、どんな奴がやって来たのか?
ジッと息を殺す自分の元、主人に続き目に入ってきたのは、まずふわりとそよぐ物だった。
ほわんとしたその者は、明らかに主人とは異種なる存在であろう。
そしてその合間から、丸くて鮮やかな瞳が煌き見えた。
「今日はお招き頂き、ありがとうございます。」
軽く微笑むその様は、実に柔らかかった。
やけにふわふわとしている存在だと思う。
「お言葉に甘えて、この仔共々やって来てしまいましたが、宜しかったでしょうか?」
実に和やかでおっとりとした感じで、その人は主人に向かい尋ねる。
まるで暖かな日に揺れるカーテンのレースみたいに、サラサラと零れ落ちる長い頭髪。
その外見に、思わず俺の警戒心も揺らいで行くようだったが・・・!?
・・・この仔とは、一体!?
麗らかな空気を纏うその人の手元を見れば、其処に見つけた一つの箱。
それに俺は一転、グッと大きく顔を顰める!
「それは!勿論!」
だが焦り見やった視界の先、其処には明らかに不審な主人が突っ立っていた。
ヤケにに崩れた顔つきで、『どうぞ?』とお気に入りのソファーを勧めるソイツ。
・・・何だって言うのか!?
俺は明らかに頼りにならないその様に、がっくりと首を項垂れる。
果たして客の持っている箱の中には、何が入っているのか!?
そしてただただその箱へと、俺は強い警戒心を抱きつつ、高場から二人の様子を見つめた。
「でも、本当に世間とは狭いものですわね。高校卒業以来、こんな風に再会しようだなんて!」
「うん、本当だね!」
「ヒビキさんは、ヘリオポリス大に行かれたのでしたね?」
「そう。ラクスは・・・プラント大だったよね!」
どうやら懐かしい仲らしい、軽く話題を弾ませていく二人。
ソツギョウしてから早6年、時が経つのは早いものですわね・・・とかなんとか、しみじみと口にしながらだ。
此処で俺がそういえばと思ったのは、ラクスと聞こえた名前にだった。
少し前にだったが、その名を聞いた気がする、と。
何はともあれ、主人はこの客に興味があるらしい。
先程から突っ立ったまま、彼女へと一途に目を向けているその姿。
「ごめんなさいね。私、あの頃はあまりヒビキさんの事は存じ上げなくて・・・。」
「いや。良いんだよ!僕は理系だったし、同じ高校ではあったけれど、君は特別な音楽科だったでしょ?」
「はい。」
「だから、僕の事を知らなくても全然普通の事だよ。」
でも・・・と客は目を細め、主人を見つめた。
「ヒビキさんは私の事を知ってみえたのでしょ?」
「う、あぁ・・・!」
此処で何故か主人は口篭り、そして目を逸らせた。
何か気不味い事でもあったのだろう、僅かに後頭部をかき上げながらだった。
「それは、まぁ・・・ね。」
「・・・?」
「君はさ、ラクスは・・・凄く人気があったから。」
「え?」
遠い目をしつつ、何かを思い遣るように顔を落とした主人は、一転、直ぐに顔を上げる。
そして彼女を再び見つめるとだった。
「そうだ!インスタントだけれど、珈琲と紅茶、どちらが良いかな?」
唐突にそう告げて、キッチンへと向かい歩き出す。
何と言おうか、今日の主人はやはり妙であろう。
俺は背を向けたソイツを見つめ、そしてソファーに座る彼女を見やる。
漂うは何とも言えない空気、これに髭がヒクヒクするようだったのだ。

 

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05/29/09:31  陽だまりの仔 2

アイツは一体・・・?
そんな疑問が頭に浮かび続ける中、普段通りの日々が過ぎていった。
ここの所天気は快晴。
何処か眠気を誘われる、そんな陽気である。


ピンポーンと不意に鳴った玄関チャイム。
これに我が家の主人はのそりと気だるげに反応を示した。
最近また夢中となっているゲームとやらに、ここの所かかりきり。
眩く光る四角い板に向かって、やたらと真剣な眼差しを向けている日々なのだが?
その最中での来客。
『ったく、こんな時に!?』と小さく呟き、主人は不機嫌極まりない顔つきでインターフォンの方へと向かっていった。
そして『はい』と素っ気無く応答する声が聞こえた。
俺は窓辺から飛び降りると、ほんわかしていた身体をゆっくりと伸ばし、主人の座っていたソファーへと飛び乗る。
其処には先程まで主人が触っていた四角い妙な物体が置いてあり、玄関へと向かっていくらしい足音を耳にしつつ、俺はそれをジッと見つめた。
先程まで五月蝿く耳を突いていた音は不思議と止み、見やった先、発光する四角い箱の中も静かなものだ。
フムと独りごちて、俺は再び目の前に転がる四角い妙な物体へと向き直る。
これに何か仕掛けがありそうだが・・・?
チラリと玄関の方を伺う。
そして普段から見かけている主人の行動に習い、試しに前足をその物体の一つの膨らみへと乗っけてみた。
だが残念な事に何も起こらない。
ならばと、隣の突起へと今度は手を伸ばしてみた。
だがこれもハズレらしい。
フムムと首を捻り、俺はエイとばかりにそれに飛びついてみた!
すると一瞬後、今度こそ見事に鳴り出した音と、箱の中の動く光。
これに『おお!』と胸が飛び跳ねた。
さてはて、一体何がどうなっているのかは分からない。
だが妙に高揚していく胸の内、俺はむやみやたらと突起を押しまくった。
だが何故だろう、しばらくすると聞こえていた高音が止み、四角い箱の中は一旦穏やかな様相を呈して・・・。
どれぐらいが経ったのだろう、パタパタと聞こえ近づいてきた足音に、俺はピクリと顔を上げた。
どうやら来客との遣り取りを終えたらしい。
やがて部屋の中へと戻って来た主人は、ゆっくりと此方を見やる。
その目に思わずギクリとなり、俺は身を固めた!
何となくだけれど、不味い気がしたからだ。
けれど・・・?
「はぁ・・・。」
奇妙に溜息をつくと、主人はその場に立ち尽くした。
一体、どうしたのか?
余程に不味い事をしてしまったのだろうかと、俺は思わず身を後ろへと引く。
「どうしよう。」
だが尚も飼い主はそのまま、自分を見るでもなく、寧ろ呆けた感じでいる。
これにホッとなりつつ、俺は顔を顰め『どうしたんだ!?』と啼いてみせた。
しかし主人は相も変わらず。
「こんな事って、本当にあったりするんだね・・・。」
そう呟き立ち尽くす。
これに俺は大きく顔を捻ったのだ。

 


どうやら誰かが隣に引っ越して来たらしい。
後で分かった事だが、先程の来客がソイツであり、その人間がどうやら主人の意識を混乱させたようだ。
あれからしばらく経ったが、何処か呆けた状態のまま、飼い主はむやみやたらと俺に話しかけてくる。
全く、何がどうなっているんだか?
「ラクス・クラインっていうんだ。」
貰ったらしいピンク色をした箱、それをにへらと見つめながら、主人は気持ち悪い声でそう呟く。
「アスランもさ、きっと気に入るよ?だって妖精みたいに可愛い女性なんだから。」
ヨウセイってなんだ?
俺はキモ主人を見上げながら思う。
というか、明らかに鼻の下が伸びているだろう。
見て感じるその様に、胸の中を呆れが突く。
「あぁ、もう・・・夢みたいだよね。まさか彼女とお隣になれるなんてさ!」
尚も未だ続く可笑しい呟きに、俺は愛想を尽かせて背を向けた。
これ以上聞いていられるか。
そうして先程の陽だまりへと、もう一度向かおうとしてだった。
「そういえば、彼女も猫を飼ってるって言ってたんだ。」
背に聞こえた主人の声。
それに微かに俺は振り向いた。
ネコとは自分達を呼ぶ別名だ。
つまり、新入りが此処にやってきたという事だろう。
呆けたままの主人からの情報に、俺はフッと思慮する。
頭の中に浮かんでいたのは、いつかの金色をした奴の事だった。
そしてこの数分後、ようやく正気に戻ったのだろう、主人の『うわっ!なんでゲームオーバー!?』という叫びが室内に木霊したのだ。


・・・陽だまりの仔に逢えるのは、もう数日後・・・。

 

 

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05/29/09:29  陽だまりの仔 1

眩い陽の塊みたいなヤツを見つけたその日・・・。
空は何処までも澄み渡り、そして心は妙な高揚感に襲われていたのだ。


俺の名前はアスラン。
飼い主はくるんとした目の、甘い顔をしたちょっと危なっかしい男だ。
行動は、いつもその時任せ。
朝起きる時間だってバラバラで、何を考えて居るんだか全く分からない。
時折『うわっ!ヤバイ!』とか言って跳ね起きて、ボサボサの頭でドタドタと慌しく動き出し、尚且つ独りで叫びだす。
何で目覚ましが止まっているんだよとか、どうしてこういう時に限って寝坊するんだとか。
本当に訳が分からない。
というか、それは自分の行いが悪いからだろ?
傍で呆れた眼差しを向けてやるものの、当の本人は気付く素振りも無くて。
まあ、もうかれこれ5年の付き合いになるし、コレぐらいの事は慣れっこ。
どれだけ慌てていようが、俺のご飯や世話だけはしっかりしてくれる、その点だけでも高く評価してやるべきだろう。
そうして今日も、飼い主は嵐の如く家を出て行った。
『ごめん!時間が無いからもう行くけれど・・・はい、御飯だよ!』
ちゃんとしっかり食べてね?
そう言い残していった男へと、俺は胸の中でこう思っていた。
はいはい、分かっているから、早く行けよ?と。
そして俺は置かれたご飯食べながら、ルーズな飼い主を思い遣る。
今頃は何をしているだろうかと。


そんなこんなで、独り静かな朝食後、俺はいつも飼い主が使っているデスクの上へと飛び乗り、其処に置いてある様々な道具を眺め見ていた。
詳しくは分からないが、飼い主はこれ等の物を使って、奇妙な物を生み出すのだ。
カタカタしゅるしゅると、実に軽快に動く生き物を。
残念ながら匂いは無くて、どうやら食べれるものでは無いようなのだけれど。
『ほら出来たよ!アスラン、行くよ!』
そうして飼い主は、出来上がったソイツを床の上に置く。
するとカタカタ、時にしゅるしゅるという音を立てながら、ソイツは床の上を素早く動き回るのだ。
それを捕まえたって何の得にもならないとは承知の上。
けれどどうしても、そう、なんとも言えずソイツの動きが意識に障るから・・・!
目の前を横切ろうとした一瞬の間に、俺はソイツへと飛び掛かかる。
そして見事に拿捕!
次いで渾身の右パンチを喰らわせてやるのだ!
『うわっ!アスラン凄いね・・・まさに瞬殺!』
おかげでジージーと奇妙な音だけを立てながら、ソイツは再起不能。
可笑しな格好で床に寝そべる羽目に陥る。
正に、怖れるに足らぬ相手!
とはいえ、何故かその後も飼い主の手によって生き返り、何度かリベンジを謀ってきたりもするから!
一体全体、飼い主は此処で何をどうして居るのか?
俺としてはソレが凄く気にかかっているのだ。
しかしまぁ、何とも言えず煩雑な机の上。
あっちこっちに散らばっている道具の数々に、思わず溜息が出る。
よく見て歩かないと、酷く尖った物体さえも転がっている。
ちょっとだけ片付いている(というか、空いていた)スペースにて腰を下ろすと、目を細めて辺りを見やった。
正に困った飼い主だ。
そんな風に思いつつ、ゆっくりと顔を動かして・・・。
ふと窓辺へと意識が向いて、俺は其処から外を見つめた。
今日は快晴。
実に見事な青空がチラリと垣間見える。
もう少しこの場所を偵察したらば、いつもの日の射し込む一角にてのんびりと昼寝でもするとしようか?
思わずそんな算段をしつつだった。
ん?と何となく気を引かれ、俺はその窓辺へと近づいていった。
外に小さなテラスが覗ける其処は、壁伝いに隣から繋がっている。
そして今其処にはだった!
・・・誰だ!?
ふわふわほわんとした金色をした毛並みが、チラリとこの目に映って見えた!
思わずグッと身を乗り出し、ソイツを凝視する。
何者だろう?
心地良さ気に身を丸め、俺のテリトリーに入り込んで居る奴は!?
・・・コイツは一体?
見たこともないヤツだった。
今まで生きてきた中で、そう、時折ケンシンとかいう名目で向かうドウブツビョウインとかいう場所でも見たことが無い。
何とも言えず柔らかそうな毛並!
まるで降り注ぐ日の光から生まれたみたいだと思えた。
近寄ったらば芳ばしい匂いがするのではないだろうか?
ふとそんな風にさえ思い、俺はただただソイツをジッと見つめて・・・!
直後、何かを感じたのだろう。
ソイツの耳がピクリと動き、そしてその顔を上げた。
そして辺りの気配を伺うようにゆっくりと見やり・・・俺を見つける!
刹那にドクンと鼓動が鳴っていた。
ああ、何て・・・?
言葉にならないぐらい、真っ直ぐに射し込んで来たソイツの瞳。
あろうことか、その目さえも陽の色で!
正に空から舞い降りてきたかの如く、眩くこの目に映って見えた!
けれどこの逢瀬は一瞬にして終わりを告げる。
ボウっと見つめて居た俺の視線の先、ソイツはくるんと顔を戻し、スッと身を起こした。
そしてゆっくりとテラス伝いに歩み去っていく。
そして見事な印象だけを俺の中に残して、姿を消したのだった。

拍手[2回]

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