アイツは一体・・・?
そんな疑問が頭に浮かび続ける中、普段通りの日々が過ぎていった。
ここの所天気は快晴。
何処か眠気を誘われる、そんな陽気である。
ピンポーンと不意に鳴った玄関チャイム。
これに我が家の主人はのそりと気だるげに反応を示した。
最近また夢中となっているゲームとやらに、ここの所かかりきり。
眩く光る四角い板に向かって、やたらと真剣な眼差しを向けている日々なのだが?
その最中での来客。
『ったく、こんな時に!?』と小さく呟き、主人は不機嫌極まりない顔つきでインターフォンの方へと向かっていった。
そして『はい』と素っ気無く応答する声が聞こえた。
俺は窓辺から飛び降りると、ほんわかしていた身体をゆっくりと伸ばし、主人の座っていたソファーへと飛び乗る。
其処には先程まで主人が触っていた四角い妙な物体が置いてあり、玄関へと向かっていくらしい足音を耳にしつつ、俺はそれをジッと見つめた。
先程まで五月蝿く耳を突いていた音は不思議と止み、見やった先、発光する四角い箱の中も静かなものだ。
フムと独りごちて、俺は再び目の前に転がる四角い妙な物体へと向き直る。
これに何か仕掛けがありそうだが・・・?
チラリと玄関の方を伺う。
そして普段から見かけている主人の行動に習い、試しに前足をその物体の一つの膨らみへと乗っけてみた。
だが残念な事に何も起こらない。
ならばと、隣の突起へと今度は手を伸ばしてみた。
だがこれもハズレらしい。
フムムと首を捻り、俺はエイとばかりにそれに飛びついてみた!
すると一瞬後、今度こそ見事に鳴り出した音と、箱の中の動く光。
これに『おお!』と胸が飛び跳ねた。
さてはて、一体何がどうなっているのかは分からない。
だが妙に高揚していく胸の内、俺はむやみやたらと突起を押しまくった。
だが何故だろう、しばらくすると聞こえていた高音が止み、四角い箱の中は一旦穏やかな様相を呈して・・・。
どれぐらいが経ったのだろう、パタパタと聞こえ近づいてきた足音に、俺はピクリと顔を上げた。
どうやら来客との遣り取りを終えたらしい。
やがて部屋の中へと戻って来た主人は、ゆっくりと此方を見やる。
その目に思わずギクリとなり、俺は身を固めた!
何となくだけれど、不味い気がしたからだ。
けれど・・・?
「はぁ・・・。」
奇妙に溜息をつくと、主人はその場に立ち尽くした。
一体、どうしたのか?
余程に不味い事をしてしまったのだろうかと、俺は思わず身を後ろへと引く。
「どうしよう。」
だが尚も飼い主はそのまま、自分を見るでもなく、寧ろ呆けた感じでいる。
これにホッとなりつつ、俺は顔を顰め『どうしたんだ!?』と啼いてみせた。
しかし主人は相も変わらず。
「こんな事って、本当にあったりするんだね・・・。」
そう呟き立ち尽くす。
これに俺は大きく顔を捻ったのだ。
どうやら誰かが隣に引っ越して来たらしい。
後で分かった事だが、先程の来客がソイツであり、その人間がどうやら主人の意識を混乱させたようだ。
あれからしばらく経ったが、何処か呆けた状態のまま、飼い主はむやみやたらと俺に話しかけてくる。
全く、何がどうなっているんだか?
「ラクス・クラインっていうんだ。」
貰ったらしいピンク色をした箱、それをにへらと見つめながら、主人は気持ち悪い声でそう呟く。
「アスランもさ、きっと気に入るよ?だって妖精みたいに可愛い女性なんだから。」
ヨウセイってなんだ?
俺はキモ主人を見上げながら思う。
というか、明らかに鼻の下が伸びているだろう。
見て感じるその様に、胸の中を呆れが突く。
「あぁ、もう・・・夢みたいだよね。まさか彼女とお隣になれるなんてさ!」
尚も未だ続く可笑しい呟きに、俺は愛想を尽かせて背を向けた。
これ以上聞いていられるか。
そうして先程の陽だまりへと、もう一度向かおうとしてだった。
「そういえば、彼女も猫を飼ってるって言ってたんだ。」
背に聞こえた主人の声。
それに微かに俺は振り向いた。
ネコとは自分達を呼ぶ別名だ。
つまり、新入りが此処にやってきたという事だろう。
呆けたままの主人からの情報に、俺はフッと思慮する。
頭の中に浮かんでいたのは、いつかの金色をした奴の事だった。
そしてこの数分後、ようやく正気に戻ったのだろう、主人の『うわっ!なんでゲームオーバー!?』という叫びが室内に木霊したのだ。
・・・陽だまりの仔に逢えるのは、もう数日後・・・。
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