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06/13/08:26  緑の芽 3

お久しぶりの更新です^^
次でこのお話も終わりになると思いますので。
では、↓↓本文へどうぞ!







カガリは自国へ帰途する専用機の中、重い吐息をついた。
地上から遥か上空、安定飛行に入った機体は長閑なエンジン音を立て、透き通った青い空の中を漂っている。
だが胸の内は鈍よりとしたまま、まだこの靄が晴れる事は無い。
明日、幾年かの月日は過ぎたものの、あの凄惨な事件があったその日が再び訪れようとしている。
プラントに住まう人々は、遣り切れない哀しみを胸に、一瞬で奪われた多くの命を想い募っているのだろう。
そして地球に住む人々もまた、また別の意味でその重みを噛み締めている筈だ。
凶行の痕は連鎖して、澱となって多くの人の心の中に負の作用をもたらしている。
決して消えはしない、永遠の傷痕。
「今直ぐに、南アフリカに居るキサカに連絡を繋いでくれないか。」
カガリは秘書官へと告げ、組んでいた両手を解いた。
考えていた所で何も解決はしない。
せめて現地の情報だけでも、今は入れておくべきだろう。
元自分の護衛を担っていた存在・・・キサカは、今回の事態に自ら志願して現地へと発って行った。
元々の血筋はあちらである事もある、やはり今回の一件は並々ならぬ想いで居るのだろう。
「カガリ様。」
繋がった回線の先、懐かしい精悍な顔つきをした男が映った。
自分の護衛として共に過ごしていた時間は彼方へ、その顔には幾分か老いが見て取れる。
だがその眼差しは変わらず、凛とした光を灯して居る。
戦時下、ヘリオポリスで地球連合軍が密かに開発をさせていたMSを目にし、国にて父とぶつかった私。
『お前は何も知らぬ』そう言われ、ならばと国から出て戦場へと足を向けた。
そんな自分に着かず離れず傍に居てくれた。
『貴女が無事に国に戻るまで、私がお傍でお仕えさせて頂きます。』
画面に映った彼の姿に、重なった過去の一面。
不測の状況の中、吹き荒れていた胸の砂嵐が、ほんのりと納まりをみせた気がした。
 

 

明日は2月14日。
『代わりに、花を添えておくよ』そう友からのメールを受けて、『すまない』と俺は返信を送ったのが昨晩の事。
本来ならば命日となる明日、自分の手で花を手向けに行くべきなのだろうが、そうも言って居られない状況に、止むを得ず頼んだ。
万が一の事態に備えて、オーブ軍も出動出来るようにとの通達が出ている。
指揮官という立場にある以上、緊急時に迅速な対応を取らねばならない。
とにかく今は神経を尖らせ、世界各地へと目を配る必要がある。
多くの人が互いの命を尊重し、それぞれの距離を持って暮らす世の中で、自らの意識が突出する余りに、それに相反する他人を許せぬ者たち。
過去の歴史を遡れば、そういった者達によって繰り返された痛ましい事件が実に多くある。
勿論、彼等がそういう行動に走るに至った経緯があり、彼等もまた同じ人である。
だが自分の想いを知らしめる為にと、誰かを犠牲にする行為を赦すわけにはいかない。
人を人とも思わぬ者達からこの国と多くの命を守る為、自分はその為に此処に居るのだから。
「ザラ准将。」
定時の報告をしに、部下がやってくる。
そのデータを受け取ると、彼へと問いかけた。
「プラントのカーペンタリア基地、並びにジブラルタル基地の方からは、特に何も連絡は入っていないか?」
「はい。両基地からは特に異常無しとの事です。」
一つ頷き、『分かった』と告げて退出を促した。
部下の足音が遠ざかっていくのを耳にしつつ、また別の端末へと手を伸ばした。
短い間の後、『はい、こちら行政府です』という応答が聞こえた。
「今日のアスハ代表の帰国時間は、当初の予定通り午後6時頃という事で変更は無いな?」
「はい。ありません。」
端的な確認だけを取ると、回線を切った。
今のこの時、国の代表たる彼女の無事な戻りは重要な事だ。
暴動が起こっているとされる場所もそうだが、暗躍する者の真の狙いが他にあるとも限らない。
当然、オーブ国首長を護るべく優秀なSP達が付いては居るのだが、やはり気にはなる。
報告書の内容を端末にて確認しつつ、一つ吐息をついた。
監視厳となっている今、その中身は膨大だ。
しかし出来た部下等によって、内容はレベル分けされ、自分が必要としているであろう情報が手早く読み取れるようになっている。
アスランは軽く両目を閉じた後、再び睨むようにして画面を見つめた。

 

昨晩、不意に懐かしい夢を見た。
『この子達は凄いのよ。マイナス10度ぐらいの寒さならば、へっちゃらなんだから。』
それはまだオーブのコロニーヘリオポリスに居た頃、母の研究するラボに赴いた時の事。
広大な敷地に等間隔に植えられた植物達の群れの中、微笑みながら話していた母。
『寧ろ少し寒いぐらいの所が良いの。その方が、キュッと身が引き締まるのね。』
母は真面目で、自分の内面を飾らない人だった。
そして子供の目から見ても、一枚、また一枚と内側から葉を巻いて育っていくその野菜達の研究に、心身を注ぎ込んでいた。
『アスランも、少しずつで良いの。自分の中に素敵な芽を育てていってね。』
懐かしい声音。
だが夢の中でそう告げた母に、自分は思わず首を傾げていた。
生前の母は、そんな事を言っていただろうかと。
記憶に無いその言葉に、疑問がこみ上げ・・・そして目が覚めた。
静かな居室には、自分独りきり。
普段ならば隣に並んで眠る伴侶も、今は未だ他国へと赴いたまま戻らない。
起き抜けに一つ大きく息をつき、くしゃりと頭部に手をやった。
今頃こんな夢を見るなんて、やはり相当に意識が張り詰めて居るからだろうと。
聞いた覚えの無い言葉を告げた夢の中の母に、何とも不思議な思いが込み上げた。
素敵な芽を育てろ、か。
呟き、そしてフッと目をやった先にあったのは、例の小さな鉢だった。
数日前、国を出立する前日の夜に、妻から預かった物。
このベッドの中で愛しい彼女から伝え聞いたソレの経緯に、成る程と頷きつつ自分は任を受けたのだ。
『ついこの間、亡くなられたそうだ。』
妻であり、この国の現首長を務める彼女・・・カガリは、恐らく複雑な想いでこれを受け取ったに違いない。
オーブ本土が被害を被った第一次大戦にて逃げ遅れた贈り主の母親は、一命を取り留めたものの昏睡状態となった。
当時の贈り主は幼く、自分を抱えて逃げていた最中、辺りに飛来した弾の衝撃を受け母親は負傷。
オーブ軍兵士等に助けられ、安全な場所へと移動、迅速な応急処置が施されたものの意識は戻らず。
それから8年間、母親は眠り続けていたという。
『物心つくようになってからは、随分と世の中を恨みました。』
妻に告げた贈り主は、言葉とは裏腹に穏やかに微笑んでいたという。
『でも、自分を守ってくれた母や、助けてくれた兵士達、多くの人の支えがあって今の自分が生きているんだと。ある時そう思えるようになったんです。』
重なり思い浮かんだのは、今はプラントへと移住、ZAFTにて兵士となったシンの姿だった。
アイツも同じ、第一次大戦中にオーブにて被災、家族全てを失った。
突如として奪われた命に、人はまず憤りを抱かずには居られない。
第二次大戦にてZAFT機のMSに乗り、命令とはいえ祖国を攻撃する側へと回ったアイツ。
受け入れられない哀しみに、誰かを恨む事で心は安定を取り戻そうとするのかもしれない。
斯く言う自分もまた、キラやカガリに会わなければどうなっていたかは分からないのだから・・・。
『今はオーブにて園芸店を営んでいるそうなんだ。慰霊碑の花壇なども、その店に管理を任せてあるんだ。』
憎しみに心を染めても、それは怒りの感情を生むだけ。
この鉢植えには、贈り主が精魂込めて開発した新種の花の種が植わっているらしい。
『どんな花が見られるのかは、成長してからのお楽しみです。』
贈り主からの深い想いを胸に、鉢植えを受け取った妻・・・カガリ。
自分もまた感慨深く、その鉢を見つめて居た今朝。
何かを護る事は容易い事では無い、だがその為に力を注ぐ事が大事なのだ。
そう深く思い至れるようになった自分。
「今がその時だ。」
争いによって失う悼みを知っているからこそ、明日という日に新たな火種を起こさぬように!
南アフリカで巻き起こった暴動は、この時期的に見過ごせぬ不穏な要因である。
どうか、U7と共に永眠した多くの人々の魂を、安らかな気持ちで悼めるように!
気がつけば時計は間もなく午後5時となろうとしていた。
オーブ国首長等の帰国の一報も、そろそろ来る頃だろう。
意識を現実へと戻しつつ、再びデータ画面へと目を向けたその時だった。
「ザラ准将!」
訪れた部下を、ゆっくりと見やった。
だがその目が、一報を聞くなり細く険しくなる。
思わぬ知らせに、時間が嫌な音を立てて過ぎていこうとしていたのだった。

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05/20/08:43  Novice parents

愛しいからこそ困る事もある。
カガリは執務机に肘をついて頬を乗せた。
フウと一つ吐息をつき、どうしたものかと思案する。
これも母となった身でしか味わえぬ悩みなのだ、仕方あるまいと自分を宥めてはみるものの、やはり晴れぬ胸の内。
昨晩の事、癇癪を起こした愛しい我が子は、まるで悪魔が乗り移ったかの如き状態で、アスハ邸内に響き渡る程の大声で泣き喚いた。
元気な事は良い事です!
日頃我が子をあやし、自分の居ぬ間に面倒を見ていてくれるマーナはそう言ってくれたものの、やはり色々と不安になる。
此処の所、やけに聞かん坊になってきた気がして、これは正しく自分の子だと自覚すればこその心配。
さてはて、あの子はこれから一体どんな風に育つやら?
また一つ吐息を零し、カガリは両目を瞑った。
分刻みの日常生活は、正直母となったこの身には辛い。
産後直ぐに職務に復帰した事もあって、仕事面での困惑は無かったが、出産を経た身体はどうにも以前通りにはいかず、抜けぬ疲労感が常に付き纏う事が多々あり。
出産から1年と11ヶ月、息子はアッサリと離乳してくれ、今は当初のような胸の張りも感じられず、心配をしていた身体のラインにも崩れは無いもののだ。
まあ、これは自分をケアしてくれている侍従やらなんやらのサポートがあっての事だろう。
女性国家元首の出産、そして職務復帰は、世の中の大きな話題となった。
そんな中で、産後の戻りが悪い状態を曝してなるものかという、侍従等からのオーラが常に感じられていたから。
とはいえ、自分の産前産後の管理をしてくれたアスハ家専属の産科医は、あろうことかこんな事をのたまった。
『現在25歳で、無事に1人目を出産。ということはカガリ様、後4人ぐらいはいけますね!』
阿呆・・・とその時は目で訴えたものの、後になって思い直し少しだけその図を想像してみた。
アスランとの間に今の長男を含めて、出来ればもう1人ぐらい男の子と女の子が生まれたとして?
正直初めての出産は想像以上に壮絶で、未だ『もう一度』という気持ちにはなり難い。
だが アイツの事だ、女の子なんて生まれたとしたら、一体どんな反応をするだろう?
生まれた長男を抱っこしながら、何処か泣きそうな顔をしていた夫の事を想う。
彼と創る結晶ならば、正直、幾つあっても構わない。
そう、いっその事、本当に創れるだけ創ってしまおうか・・・なんて、思ったりもしたのだが。
「アレを見ているとなぁ・・・。」
間もなく2歳を迎える息子は、時折手に負えないモンスターと化す。
閣議にて出された案件を考慮するよりも、寧ろあの小さな怪物にどう対応するかの方が遥かに難しい、そんな気がしてならず。
浮かんだ妄想も、現実に大きく萎んでいく。
「なんでアイツ似に生まれてこなかったんだか。」
思わずそんな事を呟き、苦笑した。
キラから聞いた事がある、夫であるアスランは幼少期から実に品行方正であったと。
決して臆病だとかひ弱だとかいうわけではなく、頭も良くスポーツも出来てと、正に優秀そのもの。
対する自分はというと・・・まあ、代表首長の娘とあって、それなりに色々な事を経験、学んできた。
だが教師からの信頼や評価という点に於いては、平均・・・もしくは及第点だったろう。
時に自分を通す為に、人とぶつかる事すら厭わなかった所もあったし、相手を憎む気持ちこそ無かったものの、自分が納得出来ない事には首を縦に振らなかった。
そういう頑なな部分が、息子に遺伝したのだろうか?
「しかし、2歳になる前からあれではなぁ。」
正直先が思い遣られる。
自分似の癖毛な金髪頭をした我が子、リヒト。
背後から見る限りでは、自分の幼少時そのものらしい。
母子共に乳母をしてくれているマーナを筆頭に、多くの者がそう言う。
ただくるりと正面を向いたその顔には、見事に煌くエメラルド色の双眸があり、誰もが『あぁ』と両目を細めるのだ。
正しくお父上に似ですなぁと言いながら。
「ともかく、今日は機嫌が良いまま寝付いてくれるといいなぁ。」
周りに誰も居ない今、ふとそんな呟きが口から出た。
我が子は可愛い、だが日常が伴えばそれだけでは済まない。
あの怪獣をどうやったら上手く操れるようになるだろうか?
可笑しいかな、それがオーブ国代表首長を務める自分の、目下最大の悩み事であったりしたのだ。



送迎車から降り、入り口の門扉の前で一つ深呼吸をする。
今日は昨日よりもかなり早い時間の戻りである。
カガリは意を決して城へと足を踏み入れた。
いつも通りの出迎えを受けながら、プライベートエリアへと向かい歩み行けば、途中で 執事が『アスラン様も、既に御戻りになられております』と告げた。
これに微かに驚きながらも、とりあえず子供部屋の方へと向かい行けばだった。
「まぁー!」
正面から、これでもかと言わんばかりの笑みを浮かべて駆け寄ってきた一つの存在。
その姿に驚き、先程まであった憂いも何処へやら、カガリは微笑み両手を広げていた。
「ただいま、リヒト!」
「まぁーま、かぇーり!」
飛び込んできた小さな愛息子は、こそばゆい香りと温もりを孕みしっかりとこの身に吸着してくる。
生まれて直ぐには無かった、あの頃とは違う陽の香りがその身を覆い、高らかに愛しい言葉を発する我が子。
「まぁーま!かえーり!かえーり!」
あまり日中に一緒に居る事が出来ない所為だろうか、リヒトは戻って来た私にとにかくしがみ付き同じ言葉を連呼する。
疲れた身にはしんどいと思いつつ、やはり親馬鹿なのだろう、その言葉に『ただいま!』と繰り返し答えている自分。
「出迎えありがとうな。」
エンドレスな遣り取りに笑いながら終止符を打ち、しゃがみ込み息子の目線に合わせた。
「でもな、リヒト?独りで勝手に動き回ったら駄目だって言ったろう?」
1人で自由に歩けるようになってからこっち、この小さなモンスターは勝手に何処かへと行こうとする。
好奇心旺盛なのは良いが、自分で身を守る事が出来ないだけに、乳母やらSPやらが大わらわだ。
あまり強く制止の言葉をかけるのも難だとは思いつつ、いつ何時、リヒトを狙い定めている輩が現れんとも限らない。
早いうちから独り身になる危険性だけは、しっかりと植え付けておかねばならない。
まあ、親となった今、それを強く切に思い知ったわけだが・・・。
「リヒトが急に居なくなると、マーナが怒られるんだぞ?」
「ん・・・まーな?」
「そう。だから独りで勝手に何処かに行ったりしない事!」
両目をややキツク細めながら、ツンと小さな鼻の頭を指で突き告げた。
つぶらなキラキラと輝くエメラルド色の双眸が、瞬きながら自分の顔をジッと見つめる。
その眼差しに堪らず表情が緩みそうになるものの、ギュッと意識を引き締めた。
そして殊更目に力を込めて息子を見やればだった。
だが直後、『ヤッ!』という短い言葉が耳に届き、剥れたように顔を横に向けた我が子に、カガリは大きく両目を見開く。
「やなの!」
「リヒト?」
「それ、ヤッ!」
叱られたと思ったからなのか?
嫌そうな顔つきで横を向いた我が子に、困惑が胸を占めた。
「リヒト?」
思わず名前を呼び顔を追いかければ、先程まで輝いていたエメラルド色の双眸が一瞬にして光を失っていた。
嫌そうな顔つきをしているその子に、心が歪む。
昨日に引き続いて、今日もだ。
成長に応じて反抗期が訪れるものだと、頭で理解していても心がついていかず。
何で分かってくれないのかと、愛しさ故の苛立ちが胸に込み上げかけた、その時!
「こら、リヒト。」
穏やかな低い声がこの場に響き、私も息子もハッとなり其方へと顔を向けた。
「駄目だろう?」
直後に大きな手がリヒトの頭部を掴み、柔らかな笑みを讃えた夫の姿がこの目に映ったのだった。

   
   
   
パパとも約束をしただろう?
話しかける彼の声は、何処までも優しくて温かい。
軍部上官である為、厳しい顔つきをしているのが常らしいが、ふとした折に見せる表情や声に、今でも惹かれるこの胸。
オーブ軍内でも、心を惹かれている女性士官が多く居るのではないだろうか。
単純にそんな事を思い、カガリは歩みやって来た夫・・・アスランを見つめた。
 「正義のヒーローは、約束をしっかり守らないといけないんだぞ?」
話しながら、夫は屈み込み、リヒトをソッと抱き上げた。
父親に抱えられ、臍を曲げていたのも何処へやら、再びその瞳にキラキラとした光を戻す愛息子。
「リヒトは格好良いヒーローになりたいんだろう?」
「ん!」
「なら、ママとパパとの約束は守ろう?」
高場から望む両親の顔に、息子は嬉々とした表情に戻っていた。
最近、『ヒーロー』という言葉に何やら心を惹かれているらしい。
その言葉を聞くだけでも喜ぶ。
そんなリヒトの心を操りつつ、夫は大きく微笑みながら尚も口を開いた。
「分かったのならば、ほら、マーナさん達が探しているぞ?」
ゆっくりとリヒトを下ろした傍から、侍女達が駆けてくるのが目に入った。
どうやら湯浴みへと向かう最中だったらしい、侍女の1人は大きなバスタオルを手にしている。
そしてわらわらと侍女達に取り囲まれ、リヒトは誘われるままに向かい行く・・・かと思いきやだった。
「や!」
「リヒト様?」
「や、なの!」
再び顔を顰めて、彼女達から逃げ出そうとする息子。
その姿に苦笑をしつつ、ふと昔の自分の姿が重なり見えた気がした。
大人達に囲まれ、時に傅かれ、その中で面白くもあったが、やはり何より求めていたのはだ!
「リヒト?今日は私と一緒に入るか?」
呼び止め歩み寄り、渋い顔つきの息子へと問いかけた。
こんな時間に戻る事が早々出来ないだけに、母として、 大きくなったその身をこの手で洗い、そしてゆっくりと時間を共にしてあげたい。
「一緒に、浴室で遊ぶか?」
告げた途端に、一際大きく煌いたエメラルド色の瞳。
そして『うん!』と頷き答えた息子へと、両手を差し出す。
歩み寄り、ギュッと我が子をこの身に抱き締める。
「じゃあ、私も直ぐに浴室へと向かうから、先に行って脱ぎ脱ぎしておこうな?」
うんうんと、リヒトは今度こそ大きく頷いた。
その素直な姿に心を癒されつつ、じゃあと息子を侍女に預けようとしてだった。
「パパも!」
何故か其処で夫の方を強く振り返り、片手を伸ばしたリヒト。
その意味成す行為に、この場に居た誰もが一瞬静止、そしてゆっくりと夫を見やった。
「リヒト?」
「パパも、なの!」
思わずカァと顔が熱くなる。
子供の無邪気さというのは、時に救いようが無い。
当のアスランはというと、両目を瞬き、受けた眼差し(恐らくは侍女達からのモノ)に困惑しつつも、片膝を折り息子へと顔を近づけた。
そして『パパも一緒で良いのか?』と確認、これに大きく頷いたリヒトに苦笑するばかり。
「じゃあ・・・パパも入ろうかな?」
「うん!」
この答えを聞いて、ようやく嬉しそうに侍女達と向かっていった我が子。
その姿を見送りつつ、カガリはホウと一つ息をついた。
帰ってきて早々、何とも仰々しい事である。
自分を出迎えてくれた愛しいエネルギーの塊に、疲れも相まってだろうか、少しばかり頭の中がボーとするようだ。
「カガリ。」
そんな自分の名を呼び、ゆっくりと背後からこの身を包み込んできた存在。
ソッと見やれば以前と変わらぬ鮮やかな翡翠色の瞳があり、だがより一層鍛えこまれたその体躯が、出会った頃よりも逞しく感じられる、そんな夫の胸に軽くこてんと頭部を預け、私は小さく笑った。
「ただいま。」
何でもない挨拶。
だけれど、それがこの胸を酷く和ませる。
周りに誰も居なくなった今、夫婦のスキンシップに頬も緩む。
「今日は早かったんだな。」
「ああ。たまたまな。」
夫の答えにはにかみ、内心で大きく安堵していた。
先程、息子がむずがった時に出現してくれたおかげで、昨日に引き続き、またあんな風に大泣きされるのだけは避けられたのだから。
「さっきは助かった。」
「どういたしまして。」
告げた自分の顔の横で、夫が微笑む。
はにかみつつ、『さてと』と前置きすると、プライベートルームへと向かうべく身を動かそうとした。
リヒトをあまり待たせてはおけないと思ったからだ。
しかしキュウと再び抱え込まれた上半身。
「アスラ・・・!?」
刹那に意識そのものを彼に奪い取られ、カガリは驚きつつも、流されるままになる。
やがて離されたこの身に、軽く呼気を整えつつ夫を見やった。
軽く睨めつけ、浮ついた気持ちも宥めながら。
「こんな場所で、いきなりするか?」
小声でそう言ってやったものの、何処吹く風だった。
「夫婦なんだ、構わないだろう?」
所謂、お帰りのキスというやつだろうか。
そんな事を思いつつ、堂々たるその姿に苦笑をした。
付き合っていた頃には無かった大胆さが、夫となった今の彼には何処かある。
これは子供が生まれてから以降、特に感じられる事だ。
様々な戸惑いを乗り越え、今はある種の境地に至っているからかもしれない。
そして彼の迷いを断ち切ってくれたのは、恐らくリヒトだろう。
「これから一緒に浴室に行くんだ。これぐらいの事・・・。」
これぐらいの事?とわざと復唱してやれば、アスランは破顔した。
「そう。たったこれ位の事。」
いつまでも恥らうべき事じゃない。
そう口にしておきながら、私からの視線を受けてアスランは口を閉ざした。
先程、侍女達の視線を受けて照れていた自分を思い出したのかもしれない。
だがやがて再び目と目が合えば、自分も夫も共に顔を綻ばせていた。
そして身を寄せ合いながら、ゆっくりとプライベートルームへと向かい歩き出す。
カガリはソッと両目を閉じた。
愛しい一人息子によって翻弄されている自分達。
けれど・・・新米父母というのはきっとこういうものなのだろう。
そう感じた直後、気持ちはやや楽になっていた。
仕事の疲れは残っているものの、心は解れていく。
そして隣を歩く夫へと、更にしっかりと身を寄せたのだった。



                         ~完~


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03/07/15:03  花橘の重ね 番外編 ~ある日の二人~

これは平安時代をもじったアスカガ話『花橘の重ね』の番外編です。
本編は、以前にあったHP喪失と共に不掲載です。
なので 簡単なあらすじを・・・。
・・・右大臣ザラ家の子息アスランが、左大臣アスハ家のカガリ姫の事を宮中の管弦の儀にて見初めた事から始まったラブストーリー。
突如としてアスハ家のカガリ姫の元へと夜這いをかけに行った彼でしたが、残念ながら不発に終わってしまう。
 そこで改めて文を出し、会いに行く旨を伝えれば、行き後れになるのを怖れた父君ウズミの手筈で、今度こそ(父に罠に嵌められた)カガリと会い見える事が出来た!
そのまま、有無を言わせず想いを成就させようと思っていたアスランだったが、彼女の弟キラの出現により、願いは叶わず。
この後、不運にも宮中よりの任務でひと月程、都を離れてしまう。
対するカガリはというと、最初こそ夜這いを仕掛けてきた不埒な男だと蔑んでいたものの、実際にこの目にしたアスラン、その秀麗さと、彼の熱い想いに胸打たれ、気がつけば恋患うようになっていた。
だが残念ながら、待てど暮らせどアスランからの便りは無く、これはもはや呆れられ気移りされたのだろうと落ち込んでしまう。
そして折良く(というか、父君としては一刻も早く良き縁を組ませようと)宮中への出仕の話が舞い込み、カガリはアスランを忘れる為にもとこれを了承。
やがて明後日には出仕という時、独り庭園を歩いていたカガリの前に、任務より戻ったアスランがいきなり現れて・・・!
すったもんだの末に、互いに想いが通じ合い、果れて相思相愛の仲となる。
直ぐにでも、婚礼の儀を・・・と意気高揚したアスランだったが、しかし時遅く、カガリは宮中へと出仕をせねばならない身の上。
そこで(止む無く)3か月の宮中務めを経て、彼女と夫婦になる事にした。
そしてこの話は宮中、カガリが出仕している最中の出来事です。







笑う彼女の姿を見れば、この胸も自然と明るくなる。
逆に沈んだ顔を見れば、切なくもなる。
以心伝心とはよく言ったもので、これ程に心を持っていかれようとは自分でも思いもしていなかった。
彼女は恥じらいこそするものの、妙に自分を誇示して見せたりすることも無い。
その言動は一見斬新に映るが、俺には心地良く暖か味を感じさせる。
一目惚れから始まった間柄、とはいえ既にまるで自分の一部であるかのごとく、いつ何処に居てもその存在が気になった。
そしてその日はたまたま、何の約束も取り付けては居なかった。
ただ物忌みによる欠員者が多く復帰してきた為、連日内裏に忙しく務めていた俺は急遽暇を得る事が出来たのだ。
当然真っ先に向かおうと思ったのは彼女の元であり、その驚く顔を想像しつつ足を向けた。
とはいえ未だ日も高い正午過ぎ、表向きは内裏内の警護を装い、ひっそりと忍ぶようにしてだ。
彼女は今頃、何をしているだろうか?
考える度にほくそ笑み躍る胸で、シホ姫の居る殿の傍まで到達した時だった。
足早に通り過ぎようとしていた俺へと、ふと御簾越しに声がかけられた。
「あら、アスラン様?」
驚き足を止め、袖で顔を隠しつつゆっくり振り返れば、『私です。ミリアリアです。』と聞こえた。
これに俺はホッとしつつ袖を下ろした。
面識こそ無いものの、カガリの同僚であろう女性だったからだ。
「こんな時間に、どうかされたのですか?」
「いえ・・・その、突然に体が空いたもので。」
とはいえ、言葉を返しつつも滅多に話さない相手なだけに、俺は正直戸惑っていた。
だが彼女は気にかけない様子で、ハキハキとした声音で話を続ける。
「あらまあ!それは何とも羨ましい限り。想いの丈が分かるというもの!」
「いや、あの・・・。」
「本当、アイツにも爪の垢を煎じて飲ませてやりたいぐらいだわ。」
呟き聞こえたその一言に、俺は思わず苦笑いを浮かべた。
彼女の言うアイツとは、勿論ディアッカの事であろう。
彼は自分と同じ武官であり、そしてミリアリアの恋人なのだ。
しかしどうにも女の噂が耐えない奴で・・・とはいえ、此処最近は彼女一筋であるような、そんな気がしているのだが?
何かしらの事が二人の間にあったのかもしれない。
そんな風に予測しつつ、自分にそんな事を言われても困ると、俺が口篭っていればだった。
「うふふ、一刻も早くカガリの元へと向かいたいって顔をしてみえますよ?」
「え・・・あ、いや。」
彼女はクスクスと笑い声を挙げた。
「でも、カガリならばついさっき来客があって、残念ながら未だ話し中だと思います。」
「え?来客?」
誰だろう?キラだろうか?
カガリの元を訪れる者といえば、最初に思いついたのが弟であるアイツの顔だった。
『誰が・・・?』と呟いた俺を前に、ミリアリアは『えーっと、確か』と何かを思い出すかの如く思案する。
「シホ様とも仲の良い、うーんと、ほら!あの方の名は・・・!」
「??」
「あぁ・・・駄目ね、彼の御名前が思い出せないわ。」
「彼!?」
考え込むようにしながら発せられた彼女の一言が、自分の耳に強く残った。
どうやらキラではないようだ。
シホ様と仲が良いという男子で、カガリの元を訪れているという、その者は一体誰なのか!?
「あ、ちょっと、アスラン様?」
「すまない。ちょっと急ぎます。」
一言そう断ると、俺は何とも落ち着かない胸を抱え、先へと足を進めたのだ。
 



忙しなく歩きつつ、頭の中で思うこと。
果たして、彼女の元を訪れているという男とは一体誰なのか?
それがどうにも気になって仕方が無かった。
というのも、実は最近、公達の間で噂となっている事があると、そういう方面に詳しい奴・・・ディアッカから耳にしたばかりだったからだ。
中宮妃の元に出仕したという金色の眩い姫。
アスハ家深層の姫君という箔も付いてだろう、そんな彼女を目にしようと、妙な画策をしている輩が居るとかなんとか。
・・・冗談ではない!
この話を聞いて、身も心も(ようやく)通じた自分としては、如何ともし難い想いがこの胸に沸き起こった。
不埒な輩に彼女が近づこうだなどと、想像するだに虫唾が走る!
・・・そのような事が無いようにもだ!
偶然にも都合のついた今、こうして彼女の元へと馳せ参じて来た理由は其処にも有る。
それなのに!?
(自分を差し置いて)既に誰かが(それも男が!)来訪しているらしいという状況を耳にして、気持ちは自然焦りを帯びる。
そして人目を憚る余裕すら無く、俺は乱れた気持ちのまま彼女の元へと向かっていった。

やがて辿り着いた女房部屋付近。
廂(ひさし)の間よりソッと室内の様子を覗い見れば、仕切りとして置かれた几帳の群れの中は静けさが漂い、パッと見には人の気配は感じられなかった。
どうやら多くの女房は勤めの最中らしい、下手に騒がれないのは幸いだ。
しかし当の彼女は何処に居るのだろう?
先程のミリアリアに手引きを願えば良かったと、この時になってようやく思い、しばし視線を彷徨わせていればだった!
ふと中から微かな笑い声が聞こえ、これに俺はハッとなる。
今の声は!
思わず弾んだ胸の鼓動。
そして意を決して、足音を忍ばせながらゆっくりと室内へと入り込んでいった。
どうやら奥まった所に居るらしい、やがて衣擦れの音が微かに聞こえ、ささやかながら会話する声も耳に入ってきた。
だが同時に、聞こえてきた低い笑い声に心は逼迫。
俺はギュッと両手を握り締め、一つ大きく息をついた。
落ち着け、落ち着くんだ。
『これで良いのか?』『そうそう、そのまま』『こんな感じか?』『そうだ、やれば出来るじゃないか』などと。
それは男女二つの声音であり、一方は間違いない、自分が会いたくて堪らずに居る彼女のモノ。
だがもう一方は・・・!?
「そうだ、そのまま。うん、そうして。」
「う~ん、難しいな。こうか?」
「そう、それで良い。」
本来、こんな風に人の会話を盗み聞きするのははしたない事であろう。
だがこの時の自分には自制というものが吹き飛び、頭の中は真っ白!
「わ、凄い!」
「あぁ、良く出来たな!」
「もう、いつまでも子供扱いするなよ!私だって、これでも充分・・・!」
「はは。もう大人の女だって?」
目隠し用にと置かれた幾重にも連なる几帳の先、其処から聞こえてくる会話に、この胸はどんどんと余裕を失くしていく。
・・・果たして、今、この奥で何が行われているのだろう!?
口の中がカラカラに乾いていた。
抽象的ながら、男が何をか彼女に教えているような、そんな状況!
・・・果たして、今、カガリはソイツと何をしているのか!
聞いた事があるような無いような、そんな男の声だった。
とにかくソイツと彼女とは実に親しげに話している。
そう、まるでキラにでも話しかけて居るかのようにだ!
そしてそんな男女の声を耳に、今までこの目にしてきた愛しい彼女の姿、表情が、何故か走馬灯のように脳裏に浮かんでくる!
初めて言葉を交わした時の事。
あの柔肌にこの手で触れた日の事。
怒った顔、泣いた顔、笑った顔、恥らう顔。
そして痺れと同時に胸の奥がグッと一際引き締められた後、カッと強い怒りが込み上げてきた!
俺は手前にあった几帳を片手で強く掴むと、奥へと薙ぎ倒した。
派手な音と共に、縺れるようにその奥の几帳もまた倒れ、そして巻き起こった風と共に開けた視界!
「カガリ!?」
怒りを露に、俺は叫んでいた。


「大変に失礼を致しました。」
頭を下げ、目の前に座る人へと許しを乞う。
彼は朗らかな含み笑いを浮かべつつ、『いやいや』と首を横に振った。
更に『そんなに気にする事は無いよ』とアッサリとした口調で述べた。
「寧ろこんな風に気色ばんで、思わず飛び込んで来てしまう程、その胸にある想いは強いという事だろうから。」
何処か彼女・・・カガリと似通った頭髪(金色をした癖毛)をした彼は、キラを連想させる眼差しを俺に向けた。
彼はフラガ家のムウなる者で、自分と同じ内裏警護を任された身であり、位こそ高くはないが、アスハ家(彼女の養父であったホムラ殿)の親縁であり、彼女にとっては幼い頃、宇治にて慣れ親しんだ存在らしい。
自分よりも一回り近く年上であろう彼は、たまたま此方にお勤めの恋女房に会いにやってきたのだが、残念ながら不在、代わりに慣れ親しんだカガリを見つけて話をしていただけとの事。
「でも本当にびっくりしたぞ?」
苦笑を浮かべ自分を見つめた琥珀色の瞳。
愛しい彼女のその眼差しに、カァと胸が妬かんだ。
早とちりであったのは良かったものの、後になってみれば格好がつかない。
小さなこえで『すまない』と詫びると、彼女もまた戸惑いながら『別に、謝る程の事でも無いけど』と口にした。
そうしてこの何とも言えない再会に照れが先走り、共に視線を軽く合わせ、そして逸らす。
すると間に居たムウ氏が口を開いた。
「いやはや、新鮮なことで。」
「え?」
「何と言うか、二人を見ていると、胸がこそばゆくなると言うか。」
ニヤリと笑った彼は、実に愉しげ。
これにカガリが『その妙な顔つきはやめてくれ!』と照れて反論した。
しかしムウ氏は何処吹く風で、尚も口を開く。
「しかし、世に深艶の君と呼ばれている彼を、ここまで虜にしようとは!」
世の中、何が起こるか分からないものだ。
そして独り何度もしみじみとした感じで頷く。
「俺に言わせれば、今も昔も何も変わらず、色気のいの字もない様に見えるんだが・・・。」
そうして彼女をじっくりと上から下まで不思議そうに眺め見たムウ氏に、当人は心底いきり立つ。
もう、ムウとは口を利いてやらない!
久々に会えたかと思えばこれだ!
ぶつくさ訴え、カガリは大きく剥れてしまった。
どうやら本当に、彼とカガリとは旧知の仲、それも兄と妹のようなもののようらしい。
俺は初めて目にした彼女の姿に苦笑しつつ、だがやはり少し面白くない思いも胸に抱いていた。
やはり自分以外の男と親しげにしている姿を見るのは、何となくモヤっとする。
「もう黙れよ?じゃないと、ムウの彼女にある事無い事吹き込むぞ!?」
「おやおや?脅迫する気かな?」
アスラン殿、将来は気をつけたほうが宜しいですぞ!
そんな風に自分へと耳打ちしてきた彼に、カガリはクワと両目を見開き『ムウ!』と叫んだ。
そして思わず腰を浮かして彼へと迫ろうとした彼女を制する様に、俺はソッと片手を掲げた。
正直、これ以上は限界だった。
そのまま、俺は僅かに自分の方へと彼女の身を引き寄せると口を開く。
「ムウ殿、大丈夫です。」
「ん?」
「仰るとおり。彼女は真っ直ぐで、自分をあまり飾ろうとしません。」
驚いたような琥珀色の瞳が、直ぐ其処で自分を見上げて居た。
その眼差しを頬に感じつつ、俺はにっこりと優雅に微笑んでみせる。
「ですが、そんな彼女だからこそ、俺は惹かれたのです。」
「っ・・・あ、あすらん?」
「そういう事も含めて、全部が良いのです。」
口にした直後、見開かれていた彼女の瞳が更に大きくなり、やがてその顔がパッともみじ色に染まっていった。
親縁である彼も、自分のこの言葉に『ほう』と口にすると、手にしていた笏(しゃく)で口元を覆ってしまった。
やがて『では、私はそろそろお暇すしようかな』と述べると、唐突にその腰を浮かし退出していく。
この機微ある動向に俺はホッとしつつ、しかし尚更、胸に焦りを覚えもしたのだ。




二人きりとなった今、彼女は再び恥ずかしげに顔を俯かせた。
だが見つめる自分の視線にゆっくりと視線を上げると、照れながらも嬉しそうに微笑んでくれる。
その顔に心臓が大きく躍るのを覚えながら、俺はコホンと一つ咳払いをした。
「あの方とは、本当に仲が良いんだね。」
「え?」
きょとんとしたその顔つきに両目が細まる。
これぞ正に、惚れた者の弱味というやつだろう。
「ムウ氏とだよ?」
「あ、ああ!うん。 宇治に居た頃なんかは、一緒に馬で遠乗りなんかしたりもしていたし。陽気で明るくて、まぁ、口は悪いけれど・・・でも、兄様みたいな存在かな。」
俺が胸に抱いている思いなどいざ知らず、彼女は明るい顔つきでそんな風に述べた。
これに『ふーん』と頷き目を瞑る。
どうしてこんなにも彼女は純真なのだろう?
幼い頃から一緒に遊んでいた仲とはいえ、もう既に裳儀も終え、今は艶有る華の身でありながらだ!
自分も含めた男という生き物を、少々 甘く見すぎている!
「とはいえ、流石に二人きりで膝をつきわせてあやとりとは、如何にも不用心じゃないのか?」
「不用心?」
そう、何かあった時に、果たしてどうするつもりで居たのだか!?
強く見つめた琥珀色の瞳の中。
其処にはまるきり理解できないというような、そんな雰囲気が見て取れて、俺はグッと両目を細める。
先程、自分がけたたましく飛び込んだ先で見た光景。
其処では何とカガリはムウ氏と中睦まじく紐で手遊び(あやとり)をしあっていたという。
もっと最悪な状況を想像していただけに、一瞬呆気に取られたものの、和気藹々、膝と膝とを着き合わせ座る二人の様に、再び意識は発火!
『これは一体?』と問い詰めようとした矢先、彼女が『アスラン!?』と目を瞬かせながら歩み寄って来たのた!
その驚きながらも喜びが垣間見えた琥珀色の瞳と、更に胸元、不自然に掲げられた彼女の両手の指の間、其処に赤い紐が幾重にも絡まっているのを見て取れば、怒りも停滞。
更に脇から聞こえた男の声。
『アスラン殿、どうか誤解なされませんように。』
彼・・・ムウ氏は自分の存在を知っていた(カガリから恋人だと話を聞いていた)らしい。
丁寧にお辞儀をしつつ名乗り、素早くこの状況に至る経緯を説明してくれた。
『些か。いえ、貴方から見れば十分に不謹慎な状況ではありましょう。ですが、彼女からもう一度だけ、昔のようにあやとりを教えて欲しいと頼まれ、手解きをしていたまで。』
貴方が思い煩うような疚しい事は、一切御座いません。
澱みのない口調でそう述べたムウ氏に、顔を顰めながらも俺は『成る程』と頷き、再び彼女へと目を向けた。
すると彼女もまた『うんうん』と頷き、そして自分の両手を掲げ『ほら!』と見せてくれた。
其処には何かを形取ったような、複雑な紐の絡みが見て取れた。
後ろめたさや悪びれる様子も無い彼等に、一先ず俺は胸を宥め、そして不躾にもこの場に乱入した事を詫びたのだ、が?
「もしかして、怒っていたりする?」
「え?」
「ムウと二人きりで居た事・・・。」
そして今現在、下から覗きこむようにして見つめてきた彼女に、俺は思わず表情を緩めた。
いやもう、あれは怒るというよりか、寧ろ驚いて当然の状況だろう!
年頃な有家子女であれば、男子の面前(一応身内とはいえ、普通は体裁やら恥らい等があって)顔を隠すものだというのに!
「あの・・・ごめん。その、ムウとはずっとああいう感じで接してきたから、つい。」
それでも自分の事を想ってか、彼女は素直に自分の軽率さを謝ってきた。
普段は快活なその瞳が、申し訳無さ気に萎れていくのを見れば、この胸がドクンと鳴る。
ああ、もう自分は完全に彼女にやられてしまっているらしい。
気がつけば眩い彼女の頭部へと片手を伸ばし、俺は柔らかなその髪を掌で梳いていた。
其処から伝わり来る愛しい人の体温、そして目にしている艶やかな瞳にホウと一つ吐息をつきながら。
「本当、どうしたものかな。」
思わずそう呟き、苦笑した。
こんなにも心を持っていかれてしまっては、離れ難くて困る。
「アスラン?」
「本当に、どうしたものか。」
そうして彼女の後頭部を軽く引寄せ、その額に額をくっつけた。
間近に感じる彼女の吐息を耳に、瞳を熱く見つめながら俺は強くこう述べた。
「分かった。もう分かったから。ムウ氏の事はもう良いよ。でも・・・お願いがある。」
「お願い?」
「そう。頼むから、俺以外の男には、もう少しだけ用心して欲しい。」
これは願望というよりか切望というべきだ。
だってちょっとした隙が、狙い定めた輩にとっては好機となってしまうかもしれないから。
先程のムウ氏がそうだとは言わないが、彼のように機微良い者ならば、本命でなくとも、ちょっとした遊びとして女性を引っかけ、その数を褒賞の如く数えていたりする奴も居るのだから。
彼女がそんな愚劣な男の罠に引っかかったりしないように!
「約束して欲しい。他の男には、もっと警戒すると。」
勝手なお願いを唱えた俺を、彼女はただジッと見つめて居た。
まるで自分の胸の内を推し量るかのように、しばしそのまま沈黙。
 「分かった。」
だがやがて頷き、彼女は小さく微笑んだ。
その言葉を聞いて、俺の胸は大きく安堵。
そして得も言われぬ甘美な赤い唇へと、最初は優しく、やがてしっとりと濃厚に口付けたのだった。
 
 
   
     
 
     

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01/29/15:27  緑の芽 2

走る車窓から街を眺める。
此処はアジア圏の中、地球最古とも云われる文明が生まれた地だ。
一種独特な雰囲気が漂う、近代とそれ等が交じり合った不思議な国。
「アスハ代表、御覧下さい。あれが近年、わが国が推移を集めて建設中のエネルギー供給タワーです。」
同乗しているこの国の外務大臣一等補佐官が、得意そうな顔つきでそう述べた。
そんな彼を見やり、それから指差された方角へと顔を向ける。
目にした構造物は、見事な迫力で天へとそびえ立っていた。
一見すると塔というよりも、それは空を支える柱のようにすら見える。
「あれが完成した暁には、広大な我が国の末端にまで、多くの資源が行き渡るようになる筈です。」
戦時中程ではないものの、今も叫ばれている燃料資源不足。
ありがたい事に、我が国オーブは天然資源に恵まれている為、これまでも然程苦難はなかったが、多くの国では様々な手法を用い、此れを克服しようとしている。
地域によって気候が異なるこの国は、厳しい冬を越す為にも、これ等の建設が急がれているのだろう。
 視界の中、チラチラと舞い落ちる雪。
此処、首都より北方に位置する地域では、更に凍てついた寛厳の地と聞く。
この寒さは、暖を取れなければ命さえも奪われかねない脅威だ。
「勿論、国防という点も兼ね添えた、将来の我が国の象徴です。」
「成る程。」
「目下、あれの最適なる呼び名を考案中でして・・・。」
『天使塔』という名前が、現在の第一候補となっております。
静かな車内、彼の凜とした声が行渡る。
それはまた、何とも厳かな呼び名だな。
胸の内でそう思い、軽く頷きながら両目を細めた。
願いどおりに、あのエンジェルタワーがこの国に多くの恵みを与える物となれば良い。
先程『国防』という点も兼ね添えたと言った彼に、一抹の憂慮を覚えつつ、オーブ国元首である彼女・・・カガリ・ユラ・アスハは、再び建設途中の塔を見つめた。
 
  
    
   
   
歓迎の為に催された晩餐会を終え、この国の高官等が用意してくれた宿泊用の豪邸、その一室へと足を入れる。
自国を出てから早4日目。
今回のアジア歴訪は、残り後2日の日程である。
身に付けていた大振りのイヤリングを外しつつ、フーッと大きく息を吐いた。
「お前達もご苦労だった。明日も朝早くから慌しいが、宜しく頼む。」
警護してくれている者等に向かいそう述べて、傍のソファーへと腰を落とす。
優秀な彼等は、短く『はい』と答えると素早く部屋から出て行った。
ドアが閉まったのと同時に、羽織っていたコートを肩から落とすと、彼女は履いていたハイヒールも足からもぎ取る。
「何か温かい飲み物が欲しいな。」
そして侍従に頼むような目線を向けると、首に付けていたチョーカーを外した。
連日の日程、そして何よりこの国の寒さに疲労感は否めない。
 「少しお酔いになられましたか?」
壁際、紅茶を入れる用意をしながら述べた侍従に、彼女は微かに頷いて見せた。
「あぁ。しかも乾杯の一杯だけでな。」
どうにもフワフワとする意識を、頭を振る事で取り成そうとする。
しかしやはりそれでどうにかなるわけでもなく。
「頼む、濃い目に淹れてくれ。」
彼女は気心知れた侍従へと向かいそう要求した。
すると『畏まりました』という声と共に、歩み寄ってきた気配。
そして『失礼します』と言って触れられた額。
侍従の目は訝しげに顔を覗き込んでいる。
「もしやとは思いますが、お風邪を召されたのでは?」
「いや。少し酔いが回っただけだろう。」
彼女はそう言って強気に微笑んで見せた。
だがややして『念のために、風邪薬は飲んでおこうかな』と付け加えた。
これに侍従は『分かりました』と答え、機微良く動いていく。
その遠ざかっていく気配を耳にしつつ、彼女は静かに首を回す。
「アラタも、今日はご苦労だったな。」
お前も疲れただろう。
見やった先は室内の一角、其処に今だ残っている一人の男が居た。
彼は優秀な自分の補佐官であり、実に頼れる存在だ。
だが幾分真面目すぎるきらいがある。
まるで何処かの誰かさんのようだなと、そんな風に思いながら・・・。
「どうした?」
何故か憂い顔で此方を見つめている彼に、彼女は小首を傾げた。
 「いえ・・・その。エスコート役を請けおっておきながら、カガリ様のご不調に気付けず申し訳ありません。」
穏やかながら、いきなりそう言って頭を垂れた彼。
「アラタ?」
「私がもう少し配慮出来ていれば良かったのですが。」
一瞬何の事だか分からず、彼女は目を瞬いた。
だがどうやら先程の侍従との会話を聞いて、自分が至らなかったと思ったらしい。
「考え過ぎだ。さっきも言ったように、単に少し酔っ払っただけだ。」
お前が其処まで責任を負う必要は無いぞ?
私はハッキリとそう述べ、彼を見つめた。
年齢は自分より2つも若い。
しかしこの歳で代表補佐官の任を得ている、 官僚内一の出世頭。
更にはオーブ氏族の血筋をも引いた、正に非の打ち所の無い存在。
そんな彼だからこそ、公式な場・・・今日のような訪問国での晩餐会にて、自分のパートナーとしてエスコート役を務める事が許されている。
というか、寧ろ政財界の古狸共などは、アラタと共に居る方がオーブの為であるとか、そんな事を言う奴まで居たりしてだ!
「そんな事よりも、例の暴動はその後どうなっているか分かるか?」
モヤっとした意識を振り払うように、彼女は話題を気になっていた事柄へと変えた。
これに一瞬間を置いた後、何処までも優秀な彼は凜とした声で答えだす。
「南アフリカ共和国での事ですか?」
「あぁ。」
「情報によれば、今日は軍が暴動者等を強く抑圧しようとしたものの、暴動に乗じた愚民が、一部で店舗や家屋へと押し入り略奪、放火などを働き、無秩序な状態になっている模様です。」
本当に、抜かりの無い奴だ。
今日は朝から共に各地を訪問、最終的に晩餐会のエスコート役まで請け負っていたというのに、何処でどう情報を得ていたのか。
感嘆しつつ、耳にした状況を重く受け止める。
「交渉の方はどうなっているんだ?上手くいっているのか?」
「はい。万事順調というわけではありませんが。とりあえず現地に飛んだレドニル・キサカ一佐によれば、保護すべき弱者、婦女子と老人等への救済の手は、近隣の国々が行ってくれているとの事。」
「そうか。」
「暴動の引き金となった要因へも、それぞれ裏から手を回し鎮静に向けて働きかけている最中です。」
・・・間に合うだろうか?
ふと彼女の胸に不安が込み上げた。
悲劇に悲劇を重ねさせたりはしない!
そう口にしたのは自分で、実際にそうするつもりだ!
だがもう残り2日で、危惧すべき日が訪れる。
既に数ヶ月も前から組まれていた公務、この歴訪を途中放棄するわけにもいかない現状。
今は自分を支えてくれている有能な者達に任せ、各方面から暴動を鎮火へと導く事に専念している。
落ち着かない胸の内、疲れも相まって彼女は両目を瞑った。
途端に浮かび上がってきたのは、懐かしさと同時に痛みすら覚える、北アフリカの砂漠の町・・・タッシルでの記憶。
あそこで生きている者達は、皆生に溢れ逞しかった。
乾燥した大地で生きるには過酷な場所、だが共に過ごす内に、文明社会が忘れている何かを思い出させてくれる、そんな所。
そうして亡くした友の事をも思い出す。
・・・アフメド、お前はどう思う?
あの頃の自分は、どちらかというと反コーディネーター寄りな思考であった。
それは地球に住まう者として、各地で起こっていた非情なる状況を引き起こした原因がニュートロンジャマーなる兵器であり、それを地球各地に埋め込んだのはプラント、コーディネーター達であったからだ。
一方だけを知り、他方を知らぬ若気の至り。
町を焼き、人々を制圧するZAFTが憎いと思った!
そしてお前を殺したアイツ等が許せないと、ただただそう思っていた!
だけど、今ならば分かる!
あれは全て戦争が引き起こした悲劇の連鎖だったんだ。
脅かされた失った命と、その憎しみの渦に、誰もが呑まれていたんだと。
その脅威も去り、ナチュラルもコーディネータも関係無い今!
誰しも一回きりの命。
憎しみに憎しみを重ねれば、それは更なる哀しみを生むだけの道となってしまう!
だから!
・・・お前ならば、きっと分かってくれるよな?
きっと南アフリカ共和国にて動乱を起こしている者達もまた、受けた悼みに心が流されているのだろう。
彼女は胸の中で強く思う。
間もなくに迫ったXデイ。
焦りはあるが、救いもある!
少なくとも、裏で糸引く、そんな輩が居るという情報は未だ入って来ていない。
だからどうか、このまま無碍に血が流れたりする事なく暴動が収まれば良い!
どうか、どうか・・・!
「カガリ様?」
ハッと気付けば、目の前にアーモンド色の瞳があった。
ソファーへと座る自分の手前、膝を付き心配気に自分を見つめているのは、側近の男。
「アラタ?」
「大丈夫ですか?」
やたらと近い距離に居るソイツに目を見開き、彼女は『あぁ』とはにかんだ。
そして『すまない、ちょっと考え事をしていた』と口にする。
「本当に大丈夫ですか?」
神妙な面持ちで尋ねてくる彼。
「いや。大丈夫だぞ。」
これに微笑みつつそう述べれば、彼は幾分安堵したようだった。
どうにも心配性な奴である。
だがそのまま、自分を見つめ一向に動かないアラタに、今度は彼女が小首を傾げる番だった。
「その、アラタ?」
真っ直ぐなアーモンド色の瞳は、不思議な気配を感じさせるよう。
何だろう?
迫り募るようなその目に、思わず知らず息が詰まる。
「貴女の御心は、皆も分かってくれている筈です。」
「あ、あぁ。」
「ですから、どうかそのように眉間に皺を寄せて、お独りで悩まないで下さい。」
そんなにも酷い顰め面をしていたのだろうか?
彼の言葉にそのように思いつつ、妙に胸がざわついた。
いや、これはこの片膝を付いた状態で見上げられているからだろう。
まるで物話に出てくる騎士の如く、恭しく自分を見つめるその瞳!
何かこの場の雰囲気を変えるべく口を開こうとしたのだが、如何せん舌が乾いている上に、上手く頭も回らない。
ゆっくりと口元だけが動き、けれど声にならず。
内心困惑しつつ、彼女も彼も互いをジッと見つめて・・・!
だが刹那、この場に『カガリ様?』という少し低目の声音が届いた。
パッと見やれば、ドアの所に侍従が立っていた。
折良く、風邪薬か何かを持ってきてくれたのだろう。
そして一瞬後、侍従はズカズカと歩み寄ってくると、何故か呆れたような眼差しでもってカガリを見つめた。
そして手にしていたガウンを、彼女にガバリと被せる。
「幾ら室内とはいえ、その様な格好のままではお身体が冷えます!」
「え?あ、あぁ。」
「全く、何をしておみえなのだか!」
そして有無を言わせぬ口調でもって、今度は補佐官たる彼に告げた。
 「アラタ様も!ご報告が御済になられたのでしたら、もうそろそろ宜しいでしょうか?」
 この剣幕に唖然となり、彼もすっかり気圧される。
「す、すみません。これは、本当に気がつかず!では、私はこれにて失礼いたします!」
「あ、ああ。今日は色々とご苦労だったな!」
また何かあれば、直ぐに報告してくれ!
そう述べて、去り行く彼を見送る。
正に嵐の如き顛末。
やがて一礼をしつつ、そそくさとドアへと向かっていった彼。
 扉が閉まる音と共に、室内に沈黙が落ちた。
ゆっくりと見やった侍従は、まだ何か言いたげな眼差しのまま、ジッと座る自分を見下ろしている。
その目に動揺をしつつも、彼女・・・カガリは口を開いた。
「ええと、紅茶は?」
侍従の怒りが何処にあるのか分からなかったが、とりあえずかわす手段に出た。
掛けられたガウンから、何を言いたいのか分からなくも無い気もしたが・・・。
「とりあえず!これをお飲み下さいませ!」
差し出されたのは、トレーの上に乗った綺麗な白磁のカップ。
口調からしてまだ穏やかではなかったが、『ありがとう』と言ってそれを受け取った。
だが?
「ん?これは・・・?」
「漢方薬です。この辺りの地で採れる、生薬というものです。」
「生薬?」
戸惑ったのは中身の色だけではない、鼻に感じられる匂いにもだ。
「何故に漢方?紅茶は?」
いきなり持ってこられても訳が分からない。
疑問一杯な気持ちで侍従を見やればだった。
「先程、風邪薬をと仰られたので。」
「それはそうだが・・・?」
「万が一の事も考えて、漢方薬に致しました。」
全くもって理解が出来ず、彼女は手にした温かい白磁のカップを見つめ当惑するばかり。
どうして風邪薬ではなくて、漢方なのか?
「万が一の事って?」
引っ掛かりを覚えた部分を口に出して問えば、侍従は自分の首元をソッとトントンと指で指した。
「失礼ながら・・・此処に殿方からの寵愛を受けた印をつけた方が、こういう事に疎いのはどうかと思いますよ?」
「え?」
「頭がボーっとすると仰られていましたし、もしかしたらそういう兆しかもしれません。」
ですから、無闇に御薬を口にしてはいけません!
淡々と自分に向かい説く侍従に、彼女は自分の首元に残る痕を片手で押さえ目を瞬いた。
侍従が言っているのは、今回の歴訪に向かう前日の夜、愛しい人から付けられた物の事だろう。
自分では気付かず、ドレスを着る段階となって初めて指摘され、おかげで当初着る予定だった物から、首元が隠せるタイプの物に変更を余儀なくされたのだが?
ややして顔がカァと熱くなる。
いや、寵愛を受けた印って!?
確かに、此処の所やたらと眠気が襲うし、ちょっと身体が可笑しいような気もしてはいるけれど?
自分が妊娠した可能性もある、と?
「滋養強壮にも良いという話です。さあ、どうかグイッとそのお飲みください。」
畳み掛けるように奨められて、私は戸惑いつつもカップを口元へと持っていった。
ここの所感じていた眠気やだるさ、それ等がもし!
もしも本当に、私と彼・・・アスランの子供が出来たからだとしたら!?
「う・・・何とも言えない味だな。」
覚悟を決めて半分程飲んでみた。
良薬口に苦しとは言うが、やはり飲み易い代物ではなかった。
思わず顔を顰め、侍従を見やれば?
先程までの怒りも幾分薄れたのか、その顔は穏やかさを戻していた。
これにホッとしつつ、残りも一気に飲み干す。
「うぁ・・・駄目だ。頼む、今直ぐ紅茶をくれ!」
だが舌に残る後味の悪さに、彼女は居ても立っても居られず侍従へと向かいそう述べた。
すると何故か細い目つきをしながら、告げられた言葉!
「紅茶ならば今直ぐにお持ちいたしましょう。けれど!」
「っ・・・けれど何だ!?」
ジッと強く見つめてきた侍従に、彼女は動揺しながらも耳を委ねる。
侍従はコホンと咳払いを一つした後にだった。
「そのように肌が露な状態で、他の殿方と二人きり、無防備で居られるなど許し難い事です!」
「え?」
「これ即ち、アスラン様を裏切る事にもなりかねませんよ!」
カガリ様、宜しいですか?
そう言った侍従に、一瞬ポカンとなった。
だが確かに、慣れ親しんだ間柄とはいえ、アラタの手前少しラフで居過ぎたのかもしれないと、そんな風に思い至る。
だから彼女は頷き、そして強く了承をした!
「分かった!分かったから!」
頼むから、早く紅茶をくれないか!?
彼女は顰め面で侍従へと向かい催促をしたのだ。



やがて侍従も去り、彼女は独り豪華なベッドの上で通信端末を操作する。
自国からの様々な連絡、そして明日の予定を確認、そのどちらもを頭に入れた後、ようやく身を横たえた。
酷く疲れているのは確かだが、それでも、晩餐会終了後の妙な浮遊感は失せている。
そして何より、当初この国の余りの寒さに感じていた手足の先の冷え。
それが何故か今は感じられず、寧ろホカホカと、体の奥から暖かさが込み上げてくるよう。
「これは生薬のおかげか?」
顔の前に両手を掲げ、何気に見やった。
掌から甲へとひっくり返せば、目に入ったのは左手の薬指、其処にあるシンプルなシルバーのリング。
そして遠く南方の自国に居る夫・・・アスランの事を想った。
アイツは今頃、何をして居るだろうかと。
やがてゆっくりと両手をお腹に宛がう。
此処にもしも、彼の子供が居るとしたら?
忙しさにそんな予想をしていなかったが、言われて初めて込み上げる感情があった。
それは大切に守りたい、いや守らねばならないという想い!
今は未だ居るかどうかも分からないが、それでも、いつかきっと、此処に彼の子供を宿したいと思う気持ちはあるのだから!
「その為にもだ。」
そっと両目を瞑る。
その先に見えるのは、乾いた砂漠の大地。
笑う民の顔も其処にはある。
『カガリ!』
叫ぶ懐かしき声も聞こえる気がした。
時を隔て、熱い大地にて繋がった友の姿。
彼女はそんな彼の名を叫び、探しだす。
そしてゆっくりと、意識を夢の中へと沈ませていったのだった。
 

拍手[16回]

01/28/15:55  緑の芽

2015年、あけましておめでとうございます!!!
間もなく2月に入ろうという頃ですが、皆様、良いお正月を迎えられたでしょうか?
大変ご挨拶が遅れましたが、今年も自分なりに小説をUPしていこうと思っていますので。
どうか宜しくお願いいたします!!

・・・ということで、今年まず初めのSSをひとつ。
本編以後の妄想話です。
アスランとカガリ結婚後の設定です。
興味のある方は、↓へどうぞ~♪








ある日突然、彼女のデスクの上に小さな小鉢が乗っていた。
それはいたって普通の、何処にでもありそうな代物。
思わず小首を傾げ見つめたものの、未だ何も生えていない、唯の土くれが覗けただけ。
時は早朝、持ち主であろう彼女は今だ眠りの中である。
フムと独りごちて、とりあえずその前を通過、クローゼットの方へと足を運んだ。
日課としているトレーニングを終えて、汗を流す為にシャワーを浴びた後である。
ガウンを抜いでインナーを身につけ、パンツに足を通した。
鏡の前で簡単に身なりを整えると、再び足を戻し、小鉢の乗ったデスクの前をゆっくりと通り過ぎ・・・大きなカウチソファーへと腰を落とした。
その脇に用意されてあるのは、珈琲一式。
アスハ邸の侍女達は、毎朝、これを用意しておいてくれる。
上質で芳しい匂いが、ポッドからカップへと注ぐ彼の鼻へと心地良く香った。
同じく脇に置かれた機器を手に、カップを引寄せる。
そして画面に表示された現在の世界速報へと、素早く目を通していった。
緊張と緩和。
まるで波の如く、静と乱とを繰り返す世界情勢。
刻々と動いていく時の中、情報はより早く得た方が有利に働く。
「南アフリカ共和国圏内で再びの暴動か・・・。」
元々は大小様々な民族国家があった場所だが、第一次大戦のエネルギー不足にて大規模な国家統合が行われたのだが、内情は余り上手く無かったようだ。
異なる民族感情が大元にはあり、其処に付け居るようにしてはびこったブルーコスモス寄りの組織によって、今も根強い反コーディネーター思想が渦巻いている地域でもある。
そして暴動の旗となっているスローガンを目にして、思わずカップに口を付けたまま動きが留まった。
『遺伝子を操作してまで生まれた、技巧品なる人間。奴等による非情な惨劇を忘れるな!』
コトンと音を立ててカップを脇に置くと、ゆっくりと目を瞑った。
これは・・・恐らく、U7落下の被害を指しているのだろう。
ずっと胸にある想い、今更だとは分かっていても消せない悔恨だ。
否応無く思い出されてきたのは、数年前、宇宙空間内での事。
U7の地球圏落下という、あのあってはならなかった大災害を阻止しようとして出来なかった自分。
あの時の光景が、脳裏にまざまざと蘇ってくる。
もしあの時、落下を阻止できていたならば!?
自分は多くの命を救えたかもしれない!
胸の奥からジンと凍てつくような感覚が広がっていく。
無慈悲に奪われた命、それを受け入れる事も出来ず咆哮した事のある自分自身が、記事の向こう側、遠い南アフリカという地で嘆く少年の姿に今重なりゆく。
忘れてはならない苦しみに、彼・・・アスランは深く深く息をついたのだった。
 
 
 
 
「今日は朝から官邸にて臨時の閣議があるから。」
焼きたてのロールパンへとバターを塗りながら、話す妻。
共働き夫婦なだけに、朝は大方こんな会話だ。
「ああ。俺も今朝は軍部にて簡易的な会議が入っているな。」
頷きながら、自分もパンに手を伸ばす。
独身時代は朝食は専ら珈琲のみ、非常に偏りがちな食生活を送ってはいたものの、結婚して以来、取れる時にしっかりと食事を採る様になっていた。
最初は付き合いがてらだったものが、次第に習慣へとなってきたらしい。
緊急を要する事態でなければ、朝食を共に採る。
これは夫婦となった後、自然と為している行為だ。
顔と顔を合わせて話をする、そんな単純な事ですら中々難しい。
ともすれば互いに別々の時間を過ごす事の方が多い自分達だけに、早朝の僅かな間であれど、これは非常に貴重な時間である。
とはいえ、責務と時間に追われ、互いの話が上手く噛み合わない事も多々アリ。
まだ挙式から1年と半年しか経っていないというのに、自分達は既に熟年夫婦のような会話だったりもするのだが。
「帰りも、いつもより遅くなると思う。」
「あぁ。」
「でもって、明日の昼過ぎからは・・・。」
「アジア歴訪だろ。分かってる。」
彼女のスケジュールは、簡単にだが頭に入っている。
急な事態に対応すべく、夫としても、国を守るべき軍幹部としても、これは重要事項である。
「それよりも、南アフリカ共和国の件は耳にしているか?」
「ん。」
「間もなく14日だ。時期的にも、何となく不穏なものを感じずにいられないな。」
今朝の速報でも目にしていた事柄を口にすれば、彼女の目も細く厳しくなった。
其処に感じられるのは憂いと、それから労わり。
「そうだな。もう直ぐ、あの日か。」
「プラントでは大規模な慰霊祭が行われる。それに同じて、挑発的な行動を起こす輩が出てくるかもしれない。」
「うん。」
2月である今、南半球に位置するオーブは夏の盛りだ。
このアスハ邸から望める透き通る青い海が、窓越し、朝日を浴びて眩く輝いている。
平和で長閑なこの景色とは、全くもって不似合いな話題。
だが世界のどこかでは、今も奪われた命に嘆き悲しみ、その心を堕としている者がいるのだ。
あと1週間で2月14日。
あの日、地球軍の放った一発の核ミサイルによって、一瞬で『ユニウスセブン』は崩壊した。
同じく、其処に居た自分の母も・・・!
間もなく訪れるあの日を前に、地球圏の特定の区域にて緊張が高まっている。
「そんな事が起こらないように、ちゃんと根回しをするさ。」
気がつけば、真っ直ぐな琥珀色の瞳が自分を見つめて居た。
揺ぎ無いその目には、神秘的な輝きがある。
国と国民の為、世界を相手にしている彼女から感じられるのは、強い信念と愛情!
「悲劇に悲劇を重ねさせたりはしない!」
自分は幾度この瞳に諭されてきたのだろう?
もう思い出せない程に長く、そして失せる事なく深く、己に無くてはならない存在。
大切な女性であり、今となっては守るべき妻なのだ!
時の重みと同じに、感じた慕情。
『あぁ』と言って頷きながら、テーブルの上にあった彼女の手に手を重ねた。
微かに見開き、瞬いた彼女の目に、自らソッと身を寄せる。
くしゃりと額と頬に感じられた金糸髪、そして温かく柔らかな感触が唇から全身を駆け巡った。
 思わず重ねた手に力が入る。
「カガリ。くれぐれも、無理はするなよ?」
間近で囁き告げた言葉に、はにかむように笑った彼女。
「それはお前の方だろ?」
この応対に、思わず自分の顔も崩れていたのだ。



先に屋敷を出て行く彼女の背を見送りながら、脹れた感情を彼は独り遣り過ごす。
自分の心配を他所に、国のため、誰かの為にならばと身を挺してしまう彼女。
勇ましいのは表の顔、実際には唯のか弱い一人の女性なのだから。
守るべき男の本能がくすぐられたのかもしれない。
ふとそんな風に思ったあと、フッと苦笑をしていた。
 「そういえば、あの鉢植えは何なのかを聞くのをすっかり忘れていたな。」
憂う気持ちは無くならないものの、ほんのりと和んでいる心。
悲しい日は、直ぐ其処に迫っている。
だが彼女と共に歩んでいる今に、些細な遣り取りに、しっかりと揺ぎ無い力を得ている自分。
それを強く強く感じながら、アスランは軍服の上着を纏うと、颯爽とドアを開けたのだった。

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