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05/29/09:35  陽だまりの仔 4

二人は紅茶を飲みながら、長閑に会話を弾ませていた。
どうやら気は合うらしい。
当初からにやけ顔の主人の隣で、楽しげに微笑む客の姿。
「これは?」
「あぁ、それは僕が作ったペットロボだよ。一応ハムスターなんだけれど・・・。」
「まぁ、ふふ、可愛い。でも、酷く傷んでみえますね?」
「それは・・・いつもアスランにやられちゃうから。」
だが此処で不意に自分の名が上がり、此方を見やってきた4つの瞳に俺は『う!』と意識を呑まれる。
「あらあら!」
更にそんな高音を挙げた客の声に、背筋がグッと後ろに反った。
「何て素敵な毛並みをしたネコちゃん!」
「でしょ?」
主人は得意気に頷くと、俺に向かい『御出で、アスラン?』と声をかけてきた。
いつにも増して満面の笑みで、自分に向かい両手を差し伸べながらだ。
だが俺は動かない。
「どうやら、警戒されているようですわね?」
「ごめんね。どうも人見知りする仔でさ。」
そう言って、主人はトコトコと歩み寄ってくると、フワリと俺を抱き上げようとした。
これに俺はその場に爪を立てて抗おうとする。
だが力では勝てる筈も無く、止む無く客の面前へと連れて行かれる!
「ほらアスラン?お隣のラクスだよ!」
「はじめまして!」
微笑む客を前に、ただただ身を固めた。
グッと近づいてきた丸く大きな青い瞳を前に、息すらも詰める。
そして伸びてきた細く柔な掌、それを大きく訝しみながらだった!
「賢そうな顔。アスランはプライドが高そうですわね。」
心地良く頭部を撫でる彼女の手と言葉に、低くしていた頭をやや持ち上げる。
どうやら悪い奴ではないらしい。
煩わしくない声や雰囲気に、少しずつだが気持ちが溶けていくよう。
何より、主人よりも気の利く人間かもしれない。
そんな風に思いながらも、俺はいやいやと気を引き締めなおす!
視線の先にあるのは、客の持ってきた四角い箱。
其処の中で蠢く何かを、自分はただただジッと見据えて・・・!


  
  
  
「気になってるみたいだね?」
そんな俺を見てか、主人はフフッと笑った。
「アスラン、仲良くして下さいますか?」
自分を撫でながら、そう告げる客。
そして柔らかな声で、彼女はその箱の内に居る『何か』に向かい話しかけた。
俺は主人の手で降ろされた床の上から、息を殺してソファーの上を見据える。
どうやらあの箱を開ける気らしい!
この飼い主からして、然程妙なモノを連れては来ないだろうが・・・。
そんな風に思いつつも、顔はグッと強張っていく。
そう!何事も最初が肝心なのだ!
どちらが上か下か優劣が決まるのだ!
前回の轍を踏まぬようにと、ゆっくりと腰を落とす。
万が一あの銀色の毛むくじゃら犬みたいなやつが飛び出てきたとしても、直ぐに対処できるように体勢を整えてだ。
「いらっしゃい、カガリ?」
カチリという音を立てて、開かれていく箱。
果たして、白か黒か茶色かそれとも銀色か・・・!?
息を呑む俺。
そして・・・先ずゆっくりとこの目に見えたのは、尖がった耳の先だった。
更にその頭部が、そして長くふわっとした尾がしなって見えて・・・。
・・・あれ?
どうやら異種ではないらしい。
大きさは自分よりもやや小さめ。
綺麗なシルエットをしていた。
けれど・・・?
飼い主である客の方をジッと見やったその瞳の色は!?
・・・あの時の奴、だよな!?
そう、間違いない、以前に見かけた陽だまりの仔であろう!
俺は『あ』という形に口を開けたまま、現れ出たソイツの事を見上げていた。
真っ直ぐに透き通った双眸は、陽の色。
白いソファーの上で、その被毛の色もまた実に鮮やかに映えて見える。
「うわ・・・!」
「アスランと同じ歳でカガリと申します。」
「光の所為でかな?毛が金色に見える!」
「鮮やかでしょう?私も最初この仔を見た瞬間に目が釘付けになってしまいました!」
そして俺同様に呆けた顔で口を開く主人。
その中で、当のソイツはちょこんと前足を揃え、キョロリと辺りを見渡していた。
「カガリ、此方はキラと言います。優しそうな方でしょう?」
客の言葉に、我が家の主へと金色の瞳が向く。
「そして此方がアスラン。」
次いでゆっくりと此方を見やってきた客を追う様に、あの瞳が此方を向いた!
その瞬間に、俺はグッと両目を見開く。
ピリリと身体に何かが走り、初めて見かけた時と同様、ドクンと鼓動が跳ねる。
鮮やかな色彩。
とにかく真っ直ぐな眼差しだった。
あぁと胸の中で声が出る。
そして言葉無くその瞳を見つめた。
本当に、何て眩いんだか・・・!と。
だがこの一瞬後、自分はまた違う意味で目を瞬いていた。
するとソイツはあれ?という感じで小首を傾げると、再びあらぬ声を発した。
予想だにしない衝撃。
それは視覚とのギャップの所為なのか、それとも単に感覚の違いからなのか?
・・・『ヨッ』って、何だ!?
ただただ息を呑み見つめる俺の視界の先、眩い陽だまりの仔が動き、そしてこう告げた。
「何だよ?聞こえないのか?」
キンとした声が耳に響く。
高くはないけれど、そう、何処か落ち着かない声音だった。
「私の名前はカガリだ!宜しくな!」
これが輝く被毛をしたソイツと俺との、最初の会話。
第一印象とは全く逆の、衝撃的な再会だった。



 

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