2015年、あけましておめでとうございます!!!
間もなく2月に入ろうという頃ですが、皆様、良いお正月を迎えられたでしょうか?
大変ご挨拶が遅れましたが、今年も自分なりに小説をUPしていこうと思っていますので。
どうか宜しくお願いいたします!!
・・・ということで、今年まず初めのSSをひとつ。
本編以後の妄想話です。
アスランとカガリ結婚後の設定です。
興味のある方は、↓へどうぞ~♪
ある日突然、彼女のデスクの上に小さな小鉢が乗っていた。
それはいたって普通の、何処にでもありそうな代物。
思わず小首を傾げ見つめたものの、未だ何も生えていない、唯の土くれが覗けただけ。
時は早朝、持ち主であろう彼女は今だ眠りの中である。
フムと独りごちて、とりあえずその前を通過、クローゼットの方へと足を運んだ。
日課としているトレーニングを終えて、汗を流す為にシャワーを浴びた後である。
ガウンを抜いでインナーを身につけ、パンツに足を通した。
鏡の前で簡単に身なりを整えると、再び足を戻し、小鉢の乗ったデスクの前をゆっくりと通り過ぎ・・・大きなカウチソファーへと腰を落とした。
その脇に用意されてあるのは、珈琲一式。
アスハ邸の侍女達は、毎朝、これを用意しておいてくれる。
上質で芳しい匂いが、ポッドからカップへと注ぐ彼の鼻へと心地良く香った。
同じく脇に置かれた機器を手に、カップを引寄せる。
そして画面に表示された現在の世界速報へと、素早く目を通していった。
緊張と緩和。
まるで波の如く、静と乱とを繰り返す世界情勢。
刻々と動いていく時の中、情報はより早く得た方が有利に働く。
「南アフリカ共和国圏内で再びの暴動か・・・。」
元々は大小様々な民族国家があった場所だが、第一次大戦のエネルギー不足にて大規模な国家統合が行われたのだが、内情は余り上手く無かったようだ。
異なる民族感情が大元にはあり、其処に付け居るようにしてはびこったブルーコスモス寄りの組織によって、今も根強い反コーディネーター思想が渦巻いている地域でもある。
そして暴動の旗となっているスローガンを目にして、思わずカップに口を付けたまま動きが留まった。
『遺伝子を操作してまで生まれた、技巧品なる人間。奴等による非情な惨劇を忘れるな!』
コトンと音を立ててカップを脇に置くと、ゆっくりと目を瞑った。
これは・・・恐らく、U7落下の被害を指しているのだろう。
ずっと胸にある想い、今更だとは分かっていても消せない悔恨だ。
否応無く思い出されてきたのは、数年前、宇宙空間内での事。
U7の地球圏落下という、あのあってはならなかった大災害を阻止しようとして出来なかった自分。
あの時の光景が、脳裏にまざまざと蘇ってくる。
もしあの時、落下を阻止できていたならば!?
自分は多くの命を救えたかもしれない!
胸の奥からジンと凍てつくような感覚が広がっていく。
無慈悲に奪われた命、それを受け入れる事も出来ず咆哮した事のある自分自身が、記事の向こう側、遠い南アフリカという地で嘆く少年の姿に今重なりゆく。
忘れてはならない苦しみに、彼・・・アスランは深く深く息をついたのだった。
「今日は朝から官邸にて臨時の閣議があるから。」
焼きたてのロールパンへとバターを塗りながら、話す妻。
共働き夫婦なだけに、朝は大方こんな会話だ。
「ああ。俺も今朝は軍部にて簡易的な会議が入っているな。」
頷きながら、自分もパンに手を伸ばす。
独身時代は朝食は専ら珈琲のみ、非常に偏りがちな食生活を送ってはいたものの、結婚して以来、取れる時にしっかりと食事を採る様になっていた。
最初は付き合いがてらだったものが、次第に習慣へとなってきたらしい。
緊急を要する事態でなければ、朝食を共に採る。
これは夫婦となった後、自然と為している行為だ。
顔と顔を合わせて話をする、そんな単純な事ですら中々難しい。
ともすれば互いに別々の時間を過ごす事の方が多い自分達だけに、早朝の僅かな間であれど、これは非常に貴重な時間である。
とはいえ、責務と時間に追われ、互いの話が上手く噛み合わない事も多々アリ。
まだ挙式から1年と半年しか経っていないというのに、自分達は既に熟年夫婦のような会話だったりもするのだが。
「帰りも、いつもより遅くなると思う。」
「あぁ。」
「でもって、明日の昼過ぎからは・・・。」
「アジア歴訪だろ。分かってる。」
彼女のスケジュールは、簡単にだが頭に入っている。
急な事態に対応すべく、夫としても、国を守るべき軍幹部としても、これは重要事項である。
「それよりも、南アフリカ共和国の件は耳にしているか?」
「ん。」
「間もなく14日だ。時期的にも、何となく不穏なものを感じずにいられないな。」
今朝の速報でも目にしていた事柄を口にすれば、彼女の目も細く厳しくなった。
其処に感じられるのは憂いと、それから労わり。
「そうだな。もう直ぐ、あの日か。」
「プラントでは大規模な慰霊祭が行われる。それに同じて、挑発的な行動を起こす輩が出てくるかもしれない。」
「うん。」
2月である今、南半球に位置するオーブは夏の盛りだ。
このアスハ邸から望める透き通る青い海が、窓越し、朝日を浴びて眩く輝いている。
平和で長閑なこの景色とは、全くもって不似合いな話題。
だが世界のどこかでは、今も奪われた命に嘆き悲しみ、その心を堕としている者がいるのだ。
あと1週間で2月14日。
あの日、地球軍の放った一発の核ミサイルによって、一瞬で『ユニウスセブン』は崩壊した。
同じく、其処に居た自分の母も・・・!
間もなく訪れるあの日を前に、地球圏の特定の区域にて緊張が高まっている。
「そんな事が起こらないように、ちゃんと根回しをするさ。」
気がつけば、真っ直ぐな琥珀色の瞳が自分を見つめて居た。
揺ぎ無いその目には、神秘的な輝きがある。
国と国民の為、世界を相手にしている彼女から感じられるのは、強い信念と愛情!
「悲劇に悲劇を重ねさせたりはしない!」
自分は幾度この瞳に諭されてきたのだろう?
もう思い出せない程に長く、そして失せる事なく深く、己に無くてはならない存在。
大切な女性であり、今となっては守るべき妻なのだ!
時の重みと同じに、感じた慕情。
『あぁ』と言って頷きながら、テーブルの上にあった彼女の手に手を重ねた。
微かに見開き、瞬いた彼女の目に、自らソッと身を寄せる。
くしゃりと額と頬に感じられた金糸髪、そして温かく柔らかな感触が唇から全身を駆け巡った。
思わず重ねた手に力が入る。
「カガリ。くれぐれも、無理はするなよ?」
間近で囁き告げた言葉に、はにかむように笑った彼女。
「それはお前の方だろ?」
この応対に、思わず自分の顔も崩れていたのだ。
先に屋敷を出て行く彼女の背を見送りながら、脹れた感情を彼は独り遣り過ごす。
自分の心配を他所に、国のため、誰かの為にならばと身を挺してしまう彼女。
勇ましいのは表の顔、実際には唯のか弱い一人の女性なのだから。
守るべき男の本能がくすぐられたのかもしれない。
ふとそんな風に思ったあと、フッと苦笑をしていた。
「そういえば、あの鉢植えは何なのかを聞くのをすっかり忘れていたな。」
憂う気持ちは無くならないものの、ほんのりと和んでいる心。
悲しい日は、直ぐ其処に迫っている。
だが彼女と共に歩んでいる今に、些細な遣り取りに、しっかりと揺ぎ無い力を得ている自分。
それを強く強く感じながら、アスランは軍服の上着を纏うと、颯爽とドアを開けたのだった。
[21回]
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