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01/29/15:27  緑の芽 2

走る車窓から街を眺める。
此処はアジア圏の中、地球最古とも云われる文明が生まれた地だ。
一種独特な雰囲気が漂う、近代とそれ等が交じり合った不思議な国。
「アスハ代表、御覧下さい。あれが近年、わが国が推移を集めて建設中のエネルギー供給タワーです。」
同乗しているこの国の外務大臣一等補佐官が、得意そうな顔つきでそう述べた。
そんな彼を見やり、それから指差された方角へと顔を向ける。
目にした構造物は、見事な迫力で天へとそびえ立っていた。
一見すると塔というよりも、それは空を支える柱のようにすら見える。
「あれが完成した暁には、広大な我が国の末端にまで、多くの資源が行き渡るようになる筈です。」
戦時中程ではないものの、今も叫ばれている燃料資源不足。
ありがたい事に、我が国オーブは天然資源に恵まれている為、これまでも然程苦難はなかったが、多くの国では様々な手法を用い、此れを克服しようとしている。
地域によって気候が異なるこの国は、厳しい冬を越す為にも、これ等の建設が急がれているのだろう。
 視界の中、チラチラと舞い落ちる雪。
此処、首都より北方に位置する地域では、更に凍てついた寛厳の地と聞く。
この寒さは、暖を取れなければ命さえも奪われかねない脅威だ。
「勿論、国防という点も兼ね添えた、将来の我が国の象徴です。」
「成る程。」
「目下、あれの最適なる呼び名を考案中でして・・・。」
『天使塔』という名前が、現在の第一候補となっております。
静かな車内、彼の凜とした声が行渡る。
それはまた、何とも厳かな呼び名だな。
胸の内でそう思い、軽く頷きながら両目を細めた。
願いどおりに、あのエンジェルタワーがこの国に多くの恵みを与える物となれば良い。
先程『国防』という点も兼ね添えたと言った彼に、一抹の憂慮を覚えつつ、オーブ国元首である彼女・・・カガリ・ユラ・アスハは、再び建設途中の塔を見つめた。
 
  
    
   
   
歓迎の為に催された晩餐会を終え、この国の高官等が用意してくれた宿泊用の豪邸、その一室へと足を入れる。
自国を出てから早4日目。
今回のアジア歴訪は、残り後2日の日程である。
身に付けていた大振りのイヤリングを外しつつ、フーッと大きく息を吐いた。
「お前達もご苦労だった。明日も朝早くから慌しいが、宜しく頼む。」
警護してくれている者等に向かいそう述べて、傍のソファーへと腰を落とす。
優秀な彼等は、短く『はい』と答えると素早く部屋から出て行った。
ドアが閉まったのと同時に、羽織っていたコートを肩から落とすと、彼女は履いていたハイヒールも足からもぎ取る。
「何か温かい飲み物が欲しいな。」
そして侍従に頼むような目線を向けると、首に付けていたチョーカーを外した。
連日の日程、そして何よりこの国の寒さに疲労感は否めない。
 「少しお酔いになられましたか?」
壁際、紅茶を入れる用意をしながら述べた侍従に、彼女は微かに頷いて見せた。
「あぁ。しかも乾杯の一杯だけでな。」
どうにもフワフワとする意識を、頭を振る事で取り成そうとする。
しかしやはりそれでどうにかなるわけでもなく。
「頼む、濃い目に淹れてくれ。」
彼女は気心知れた侍従へと向かいそう要求した。
すると『畏まりました』という声と共に、歩み寄ってきた気配。
そして『失礼します』と言って触れられた額。
侍従の目は訝しげに顔を覗き込んでいる。
「もしやとは思いますが、お風邪を召されたのでは?」
「いや。少し酔いが回っただけだろう。」
彼女はそう言って強気に微笑んで見せた。
だがややして『念のために、風邪薬は飲んでおこうかな』と付け加えた。
これに侍従は『分かりました』と答え、機微良く動いていく。
その遠ざかっていく気配を耳にしつつ、彼女は静かに首を回す。
「アラタも、今日はご苦労だったな。」
お前も疲れただろう。
見やった先は室内の一角、其処に今だ残っている一人の男が居た。
彼は優秀な自分の補佐官であり、実に頼れる存在だ。
だが幾分真面目すぎるきらいがある。
まるで何処かの誰かさんのようだなと、そんな風に思いながら・・・。
「どうした?」
何故か憂い顔で此方を見つめている彼に、彼女は小首を傾げた。
 「いえ・・・その。エスコート役を請けおっておきながら、カガリ様のご不調に気付けず申し訳ありません。」
穏やかながら、いきなりそう言って頭を垂れた彼。
「アラタ?」
「私がもう少し配慮出来ていれば良かったのですが。」
一瞬何の事だか分からず、彼女は目を瞬いた。
だがどうやら先程の侍従との会話を聞いて、自分が至らなかったと思ったらしい。
「考え過ぎだ。さっきも言ったように、単に少し酔っ払っただけだ。」
お前が其処まで責任を負う必要は無いぞ?
私はハッキリとそう述べ、彼を見つめた。
年齢は自分より2つも若い。
しかしこの歳で代表補佐官の任を得ている、 官僚内一の出世頭。
更にはオーブ氏族の血筋をも引いた、正に非の打ち所の無い存在。
そんな彼だからこそ、公式な場・・・今日のような訪問国での晩餐会にて、自分のパートナーとしてエスコート役を務める事が許されている。
というか、寧ろ政財界の古狸共などは、アラタと共に居る方がオーブの為であるとか、そんな事を言う奴まで居たりしてだ!
「そんな事よりも、例の暴動はその後どうなっているか分かるか?」
モヤっとした意識を振り払うように、彼女は話題を気になっていた事柄へと変えた。
これに一瞬間を置いた後、何処までも優秀な彼は凜とした声で答えだす。
「南アフリカ共和国での事ですか?」
「あぁ。」
「情報によれば、今日は軍が暴動者等を強く抑圧しようとしたものの、暴動に乗じた愚民が、一部で店舗や家屋へと押し入り略奪、放火などを働き、無秩序な状態になっている模様です。」
本当に、抜かりの無い奴だ。
今日は朝から共に各地を訪問、最終的に晩餐会のエスコート役まで請け負っていたというのに、何処でどう情報を得ていたのか。
感嘆しつつ、耳にした状況を重く受け止める。
「交渉の方はどうなっているんだ?上手くいっているのか?」
「はい。万事順調というわけではありませんが。とりあえず現地に飛んだレドニル・キサカ一佐によれば、保護すべき弱者、婦女子と老人等への救済の手は、近隣の国々が行ってくれているとの事。」
「そうか。」
「暴動の引き金となった要因へも、それぞれ裏から手を回し鎮静に向けて働きかけている最中です。」
・・・間に合うだろうか?
ふと彼女の胸に不安が込み上げた。
悲劇に悲劇を重ねさせたりはしない!
そう口にしたのは自分で、実際にそうするつもりだ!
だがもう残り2日で、危惧すべき日が訪れる。
既に数ヶ月も前から組まれていた公務、この歴訪を途中放棄するわけにもいかない現状。
今は自分を支えてくれている有能な者達に任せ、各方面から暴動を鎮火へと導く事に専念している。
落ち着かない胸の内、疲れも相まって彼女は両目を瞑った。
途端に浮かび上がってきたのは、懐かしさと同時に痛みすら覚える、北アフリカの砂漠の町・・・タッシルでの記憶。
あそこで生きている者達は、皆生に溢れ逞しかった。
乾燥した大地で生きるには過酷な場所、だが共に過ごす内に、文明社会が忘れている何かを思い出させてくれる、そんな所。
そうして亡くした友の事をも思い出す。
・・・アフメド、お前はどう思う?
あの頃の自分は、どちらかというと反コーディネーター寄りな思考であった。
それは地球に住まう者として、各地で起こっていた非情なる状況を引き起こした原因がニュートロンジャマーなる兵器であり、それを地球各地に埋め込んだのはプラント、コーディネーター達であったからだ。
一方だけを知り、他方を知らぬ若気の至り。
町を焼き、人々を制圧するZAFTが憎いと思った!
そしてお前を殺したアイツ等が許せないと、ただただそう思っていた!
だけど、今ならば分かる!
あれは全て戦争が引き起こした悲劇の連鎖だったんだ。
脅かされた失った命と、その憎しみの渦に、誰もが呑まれていたんだと。
その脅威も去り、ナチュラルもコーディネータも関係無い今!
誰しも一回きりの命。
憎しみに憎しみを重ねれば、それは更なる哀しみを生むだけの道となってしまう!
だから!
・・・お前ならば、きっと分かってくれるよな?
きっと南アフリカ共和国にて動乱を起こしている者達もまた、受けた悼みに心が流されているのだろう。
彼女は胸の中で強く思う。
間もなくに迫ったXデイ。
焦りはあるが、救いもある!
少なくとも、裏で糸引く、そんな輩が居るという情報は未だ入って来ていない。
だからどうか、このまま無碍に血が流れたりする事なく暴動が収まれば良い!
どうか、どうか・・・!
「カガリ様?」
ハッと気付けば、目の前にアーモンド色の瞳があった。
ソファーへと座る自分の手前、膝を付き心配気に自分を見つめているのは、側近の男。
「アラタ?」
「大丈夫ですか?」
やたらと近い距離に居るソイツに目を見開き、彼女は『あぁ』とはにかんだ。
そして『すまない、ちょっと考え事をしていた』と口にする。
「本当に大丈夫ですか?」
神妙な面持ちで尋ねてくる彼。
「いや。大丈夫だぞ。」
これに微笑みつつそう述べれば、彼は幾分安堵したようだった。
どうにも心配性な奴である。
だがそのまま、自分を見つめ一向に動かないアラタに、今度は彼女が小首を傾げる番だった。
「その、アラタ?」
真っ直ぐなアーモンド色の瞳は、不思議な気配を感じさせるよう。
何だろう?
迫り募るようなその目に、思わず知らず息が詰まる。
「貴女の御心は、皆も分かってくれている筈です。」
「あ、あぁ。」
「ですから、どうかそのように眉間に皺を寄せて、お独りで悩まないで下さい。」
そんなにも酷い顰め面をしていたのだろうか?
彼の言葉にそのように思いつつ、妙に胸がざわついた。
いや、これはこの片膝を付いた状態で見上げられているからだろう。
まるで物話に出てくる騎士の如く、恭しく自分を見つめるその瞳!
何かこの場の雰囲気を変えるべく口を開こうとしたのだが、如何せん舌が乾いている上に、上手く頭も回らない。
ゆっくりと口元だけが動き、けれど声にならず。
内心困惑しつつ、彼女も彼も互いをジッと見つめて・・・!
だが刹那、この場に『カガリ様?』という少し低目の声音が届いた。
パッと見やれば、ドアの所に侍従が立っていた。
折良く、風邪薬か何かを持ってきてくれたのだろう。
そして一瞬後、侍従はズカズカと歩み寄ってくると、何故か呆れたような眼差しでもってカガリを見つめた。
そして手にしていたガウンを、彼女にガバリと被せる。
「幾ら室内とはいえ、その様な格好のままではお身体が冷えます!」
「え?あ、あぁ。」
「全く、何をしておみえなのだか!」
そして有無を言わせぬ口調でもって、今度は補佐官たる彼に告げた。
 「アラタ様も!ご報告が御済になられたのでしたら、もうそろそろ宜しいでしょうか?」
 この剣幕に唖然となり、彼もすっかり気圧される。
「す、すみません。これは、本当に気がつかず!では、私はこれにて失礼いたします!」
「あ、ああ。今日は色々とご苦労だったな!」
また何かあれば、直ぐに報告してくれ!
そう述べて、去り行く彼を見送る。
正に嵐の如き顛末。
やがて一礼をしつつ、そそくさとドアへと向かっていった彼。
 扉が閉まる音と共に、室内に沈黙が落ちた。
ゆっくりと見やった侍従は、まだ何か言いたげな眼差しのまま、ジッと座る自分を見下ろしている。
その目に動揺をしつつも、彼女・・・カガリは口を開いた。
「ええと、紅茶は?」
侍従の怒りが何処にあるのか分からなかったが、とりあえずかわす手段に出た。
掛けられたガウンから、何を言いたいのか分からなくも無い気もしたが・・・。
「とりあえず!これをお飲み下さいませ!」
差し出されたのは、トレーの上に乗った綺麗な白磁のカップ。
口調からしてまだ穏やかではなかったが、『ありがとう』と言ってそれを受け取った。
だが?
「ん?これは・・・?」
「漢方薬です。この辺りの地で採れる、生薬というものです。」
「生薬?」
戸惑ったのは中身の色だけではない、鼻に感じられる匂いにもだ。
「何故に漢方?紅茶は?」
いきなり持ってこられても訳が分からない。
疑問一杯な気持ちで侍従を見やればだった。
「先程、風邪薬をと仰られたので。」
「それはそうだが・・・?」
「万が一の事も考えて、漢方薬に致しました。」
全くもって理解が出来ず、彼女は手にした温かい白磁のカップを見つめ当惑するばかり。
どうして風邪薬ではなくて、漢方なのか?
「万が一の事って?」
引っ掛かりを覚えた部分を口に出して問えば、侍従は自分の首元をソッとトントンと指で指した。
「失礼ながら・・・此処に殿方からの寵愛を受けた印をつけた方が、こういう事に疎いのはどうかと思いますよ?」
「え?」
「頭がボーっとすると仰られていましたし、もしかしたらそういう兆しかもしれません。」
ですから、無闇に御薬を口にしてはいけません!
淡々と自分に向かい説く侍従に、彼女は自分の首元に残る痕を片手で押さえ目を瞬いた。
侍従が言っているのは、今回の歴訪に向かう前日の夜、愛しい人から付けられた物の事だろう。
自分では気付かず、ドレスを着る段階となって初めて指摘され、おかげで当初着る予定だった物から、首元が隠せるタイプの物に変更を余儀なくされたのだが?
ややして顔がカァと熱くなる。
いや、寵愛を受けた印って!?
確かに、此処の所やたらと眠気が襲うし、ちょっと身体が可笑しいような気もしてはいるけれど?
自分が妊娠した可能性もある、と?
「滋養強壮にも良いという話です。さあ、どうかグイッとそのお飲みください。」
畳み掛けるように奨められて、私は戸惑いつつもカップを口元へと持っていった。
ここの所感じていた眠気やだるさ、それ等がもし!
もしも本当に、私と彼・・・アスランの子供が出来たからだとしたら!?
「う・・・何とも言えない味だな。」
覚悟を決めて半分程飲んでみた。
良薬口に苦しとは言うが、やはり飲み易い代物ではなかった。
思わず顔を顰め、侍従を見やれば?
先程までの怒りも幾分薄れたのか、その顔は穏やかさを戻していた。
これにホッとしつつ、残りも一気に飲み干す。
「うぁ・・・駄目だ。頼む、今直ぐ紅茶をくれ!」
だが舌に残る後味の悪さに、彼女は居ても立っても居られず侍従へと向かいそう述べた。
すると何故か細い目つきをしながら、告げられた言葉!
「紅茶ならば今直ぐにお持ちいたしましょう。けれど!」
「っ・・・けれど何だ!?」
ジッと強く見つめてきた侍従に、彼女は動揺しながらも耳を委ねる。
侍従はコホンと咳払いを一つした後にだった。
「そのように肌が露な状態で、他の殿方と二人きり、無防備で居られるなど許し難い事です!」
「え?」
「これ即ち、アスラン様を裏切る事にもなりかねませんよ!」
カガリ様、宜しいですか?
そう言った侍従に、一瞬ポカンとなった。
だが確かに、慣れ親しんだ間柄とはいえ、アラタの手前少しラフで居過ぎたのかもしれないと、そんな風に思い至る。
だから彼女は頷き、そして強く了承をした!
「分かった!分かったから!」
頼むから、早く紅茶をくれないか!?
彼女は顰め面で侍従へと向かい催促をしたのだ。



やがて侍従も去り、彼女は独り豪華なベッドの上で通信端末を操作する。
自国からの様々な連絡、そして明日の予定を確認、そのどちらもを頭に入れた後、ようやく身を横たえた。
酷く疲れているのは確かだが、それでも、晩餐会終了後の妙な浮遊感は失せている。
そして何より、当初この国の余りの寒さに感じていた手足の先の冷え。
それが何故か今は感じられず、寧ろホカホカと、体の奥から暖かさが込み上げてくるよう。
「これは生薬のおかげか?」
顔の前に両手を掲げ、何気に見やった。
掌から甲へとひっくり返せば、目に入ったのは左手の薬指、其処にあるシンプルなシルバーのリング。
そして遠く南方の自国に居る夫・・・アスランの事を想った。
アイツは今頃、何をして居るだろうかと。
やがてゆっくりと両手をお腹に宛がう。
此処にもしも、彼の子供が居るとしたら?
忙しさにそんな予想をしていなかったが、言われて初めて込み上げる感情があった。
それは大切に守りたい、いや守らねばならないという想い!
今は未だ居るかどうかも分からないが、それでも、いつかきっと、此処に彼の子供を宿したいと思う気持ちはあるのだから!
「その為にもだ。」
そっと両目を瞑る。
その先に見えるのは、乾いた砂漠の大地。
笑う民の顔も其処にはある。
『カガリ!』
叫ぶ懐かしき声も聞こえる気がした。
時を隔て、熱い大地にて繋がった友の姿。
彼女はそんな彼の名を叫び、探しだす。
そしてゆっくりと、意識を夢の中へと沈ませていったのだった。
 

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