南国の夏の太陽は煌びやかだ。
カガリは執務室から空を見上げ思う。
今はちょっとした政務の合間、空調完備されたこの部屋の中は、汗一つかかぬ実に快適な場所だ。
しかし窓から覗く青い空は透き通り、その熱が防弾ガラス越しに伝わりくるよう。
眩いばかりの晴天。
この空に、そういえばと思い出す事。
幼い頃はよく侍女等にせがんで、海へと繰り出したものだったなと。
水着にサンダルに遊具にと、持てるだけを持って、エメラルド色の海に飛び込んでいたあの頃。
肌が焼けるとか、そういう事も気にせずに、遊べるだけの時間を有に過ごしていた。
絶え間なく引いては寄せる波に嬉々となりつつ、白い雲と水中を過ぎる魚影とを追いかけて・・・。
暑い白浜での記憶。
解放的で楽しい過去が、少し根詰まりしていた意識をフワリと解していく。
今朝は官邸にて、7時から財務長官と会談があった。
その後随所に顔を出した後、某予算委員会の審議。
そして現在時刻11時48分。
執務室に戻り、溜まっていた書類に調印を押しつつ、 秘書官が持ってきてくれた冷たい飲み物に口を付けていたところである。
カガリは手にしていたグラスをソッと机に戻した。
そして午後からの、オノゴロ島に赴く予定へと頭を切り替えた。
向かう先は海上の無人島に作られた軍事演習場。
其処で改良されたMS、国防用ムラサメの視察をするのだが・・・。
アイツも今頃、この空の下で頑張っているんだろうな。
脳裏にふと浮かんだのは、この炎天下、現場にて指揮を執っているであろう存在。
その涼しげな碧色の双眸を胸に抱き、カガリはフッと微笑んだ。
会いたくとも中々会えずに居る、それが切ない女心を沸き起こさせ、そして眼前の書類を霞ませた。
せめてもう少しだけでも、これ等の書類をこなしておくべきだろう。
そう思い、カガリは再びペンを握ったものの、並ぶ堅苦しい文字列が意識にどうにも入ってこず。
彼に会える数時間後へと、胸が馳せるばかりだったのだ。
本島よりヘリにて移動、降り立ったその地は潮の香りが強く感じられる場所だ。
聞こえる波の音と、響くMSの轟音。
青く眩い空の中、ソレが遠くに連係して飛翔していく。
最初にこの身を襲ったのは熱気だった。
これに思わず目を瞠り、そしてカガリはフッと小さく息を吐いた。
思った以上の熱さ。
行政府内、程好く完備された空間とは全く異なる。
あぁ、これがオーブの夏だよな、と可笑しくもふとそんな事を思った。
そう、久しいと感じてしまうこの状況に、軽く苦笑を浮かべながら。
ヘリの離着陸場から続く先には小高い丘が見え、通例として其処に演習本部がある筈だ。
「カガリ様、少し急ぎましょう!」
自分へと進言してきた補佐官――アタラ・トキノに、カガリは頷き颯爽と足を動かした。
そして出迎えた士官に従いながら、自然と弾む気持ちを胸に、黙々と先を歩んでいく。
ジワリと為政服の内部に汗が湧き出る。
タラップから続く高台への道、その階段を昇りきれば 其処に見え出す本部のテント。
その入り口部分には、夏用の軍服を着込んだ将校達の姿が目に入ってきた。
一様に敬礼する彼等に、カガリもまた軽く敬礼を返して・・・。
「お待ちしておりました!」
此処で本土防衛軍長官たる者がスッと前へと歩み出てきた。
「わざわざのご足労、有難う御座います。」
自分へとそう述べて、軽く頭を垂れる。
「本日はどうにも天候に恵まれすぎているようで。」
そう言った彼に、カガリは強く頷いた。
確かに、今日は稀に見る猛暑日である。
「お身体に差し障りが無いように、まずは此方の本部内にて説明の方を致しましょう。実物の方は後でじっくりと・・・。」
「いや、心配には及ばない。皆が励んでいる中、私だけが特別扱いでは申し訳ないからな。」
そう告げた自分に、長官は頷いた。
父を知る彼は、何処か嬉しそうにその目を細めながら。
では早速、MSの方を御覧に入れましょう!
これに一つしっかりと頷き、長官に続き足を動かそうとしてだった。
「カガリ様!」
此処で軽いアクシデントに見舞われる。
『あ』と思った時にはつんのめり、身体が前へと傾いていたのだ。
足元にあった凹凸にまで意識が回らなかったからだろう。
「大丈夫ですか?」
だが素早く手を差し伸べ身体を支えてくれたアラタのおかげで、部下の手前失態を見せずには済んだ。
しかし『有難う』と口にしつつ、顔を上げたその先にだった!
自分を見つめている将校等の中、一際強く感じられた視線が一つ!
それは恐らく、いや間違いなく・・・!
「どうぞ、お手を!」
気を利かせてだろう、アラタが再び片手を差し出し、『足元にお気をつけ下さい』と口にしてきた。
これに思わず目を見開き、差し出された手を見つめ・・・ややしてカガリは首を横に振る。
そして『大丈夫だ』と告げると、独り慎重に前へと歩みを進めた。
数歩前を行く長官、その後ろに付き従いつつ、この一瞬前、並ぶ将校等の中、感じられた愛しい人の不穏な視線。
それに内心強く気を惹かれながら・・・。
(続く)
このSSは、2012年の夏のアスカガ合同誌『サマー☆タイム』に寄稿したアスラン視点の小説、そのカガリバージョンです。
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一応、お知らせまでに^^
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