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06/06/08:52  陽だまりの仔 7


この間は、殴ったりしてゴメンな?
俺を見上げつつ、そう言ったアイツに首を横に振る。
いや、あれは自分も悪かったと思うから。
そう告げたものの、『でも・・・痛かっただろ?』とアイツは謝ってきた。
これに微笑み、『気にするな』と答えればだった。
「お前って、いい奴だな!」
聞こえてきた一言。
殴られた事を根に持っていないのを指してだろう。
嬉しそうにそう言ったアイツに、心が軽くなる。
『そうか?』と答えつつ、これから何をしようかと考えた。
一緒に昼寝?
もしくはいつものアレ・・・ハムスターロボを追いかけて遊ぶ?
俺はそんな算段をして・・・。

  
――今現在。
カガリはハムスターロボが気に入ったらしい。
あのキラキラとした目を更に輝かせて、飽きる事無く走り回るソイツを追っかけまわしている。
待て!とか、このぉ!とか、その口から叫び声が上がっているのは御愛嬌。
「くそっ!すばしっこい奴だな!」
中々捕まらないソイツに業を煮やしつつも、実に楽しげである。
けれどクルリと大きく輪を描いて回ったロボに、同じく両足を踏ん張り、軽快にターンをしようとしてだった。
マットに前足が乗っかってしまった事により、アイツは大きくバランスを崩す!
そのまま・・・マットと共にドンっと激しく壁に激突!
「カ、カガリ!?」
思わず立ち上がった主人同様、俺もまた大きく目を見開いていた。
かなりの音が聞こえたからだ!
でもパッと体勢を戻し、再びハムスターロボを追いかけだしたカガリに、ホッと胸を撫で下ろす。
何て言うのか?
「タフだなぁ。」
両目を細めて呟いた主人に、俺もまたコクコクと首を縦に振っていた。
それまでずっと走りづめ、まるで疲れを知らぬかのよう。
好きな事、楽しいことにはまっしぐら。
「何だかキラキラしてるよね。」
仰るとおり。
窓から覗く天候とは対照的に、その姿は煌いて見える。
すばしっこく動き回る身体は、被毛の色からして光の塊のよう。
「アスランもそう思う?」
そして隣に居た自分へと向かい、いきなりそう尋ねてきた主人。
「そういえば・・・いつもだったら高場からすまして様子を見ているのに。今日は珍しいね!」
更に含み笑いを浮かべつつ、そんな事を述べた主人に俺はグッと気を引き締めた。
そして突っ込まれた事柄に心の内で反論する。
此処でこうしてアイツの行動を見つめているのは、万が一、何かがあったら不味いだろうと思っての事だ!と。
それなのに?
「アスラン?もしかしてカガリの事・・・?」
何とも妙な捉え方をしてきた主人に、気持ちがむしゃくしゃするようだった。
全く・・・!
大きく呆れはしたものの、自分を見下ろす主人の目が何故か気になる。
なのでフウと一つ息をつき、俺はパッとカガリの行方に顔を戻した。
そういうお前こそ、本当は何かやらねばならない事(シゴトというヤツ)があるのだろうに、わざわざリビングにてカガリの動向を見守っているのは、単に飼い主であるあの女性(ラクス)に得点稼ぎをしたいからではないのか!?
そんな風に思いつつだ。
だがこの刹那!
視界の端、其処で先程同様、急にUターンしたロボを追おうとして、マットに足を取られるカガリの姿がふと映った!
しかも今度はかなりダイナミックな格好でだ!
・・・危ないッ!
これにハッとなり、俺は身体を突き動かす!
「わっ・・・ッ!?」
直後、ドンと壁に鈍くぶち当たったこの身。
痛い・・・だが間一髪!
「ア、アスラン!」
壁とは反対側にて、驚きに大きく見開かれた陽の色をした瞳が、至近距離にて自分を見つめていた。
どうやら間に合ったようだ。
先程と同じように、マット諸共壁へと激突するところだったカガリ。
「夢中になるのも良いけれど、もう少し気をつけろよ?」
ゆっくりと身を起こしつつ、受け止めた金色の存在を見やれば、『う、うん』と素直に頷きながら、驚き顔であの瞳が自分を見つめてきた。
キラキラと鮮やかな、まるで太陽の如きソレ。
・・・やっぱり、何とも言えず綺麗だ・・・!
思わずジッと見つめ、だが自分を不思議そうに見やるソレにハッとなると、俺は慌てて意識を泳がせた。
そんな中、ジージーと音を立てて小賢しく走りこんできたハムスターロボ!
ソレにカガリが『あ!』と声を上げ、臨戦態勢を取ろうとした!
だが・・・。
「なっ・・・!」
攻撃圏内へと入り込んだ瞬間を狙い、かました猫パンチ。
これに陽の色をした瞳が更に大きく見開かれ、輝き俺を見つめた。
満更でもない気分。
「お前、凄いな!」
カガリからの賞賛に、正直な所、すこぶる気持ちは高揚していたのだ。



しばらくして聞こえ出した雨音に、激しい風音も混じり入る。
そしてグオウと大声が轟き、空が怒り狂いだす。
「カガリ?」
グッと大きく縮こまったその姿に、俺は気遣い声をかけた。
ずっとハムスターロボを追い掛け回していただけに、疲れて心地良く昼寝をしだした矢先の事。
いきなりの咆哮に、ビクンと金色の身が飛び跳ねたのだ。
「大丈夫か?」
 
昼間なのに真っ暗となった窓の外、其処にギラリとした光が走った。
そして再び、グオオーと地面を響かせ空が唸る。
これに一瞬フワと金色の被毛が逆立ち、カクカクと髭が小刻みに揺れていた。
確かに酷くなりそうだと思ってはいたが、ここまで激しい嵐になろうとは。
正に夜の闇のよう、そしてバチバチと打ちつけ聞こえる風雨。
心配気に辺りを見やる陽色の瞳は、まるで黒雲に覆われた太陽の如く、光を失い彷徨っている。
その様が先程までと余りにも違っていて、俺は思わず目を細め苦笑した。
あの跳ねっ返りな存在が、よもやこんな姿になろうとは?
・・・怖いのか?
そう尋ねてみようとして、けれどその言葉は喉の奥へと飲み込んだ。
きっと強がりなコイツの事だ、『馬鹿を言え!』とか何とか無理に言い返してくるだろう。
だから・・・?
「傍に居るから、大丈夫だ。」
「っ・・・アスラン?」
「俺はずっと此処に居るから。」
安心して休めばいい。
そう言ってやれば、しばし放心したように此方を見つめたあの瞳。
けれどやがてフッと、アイツは柔らかに微笑んで。
「うん。」
一つ頷き、身を伏せる。
素直なその姿に、俺も微笑み身を伏せた。
お気に入りのソファークッションの上、いつもは無い温か味を傍に感じながら目を瞑る。
少しは落ち着いたのだろうか?
察してみた隣の気配、先程まで感じられていた震えが伝わり来ない。
外はまだ荒れているようだが、身体はしっかりと疲れているのだ。
・・・一緒に眠ろう。
そして俺は緩やかに意識を手放していった。
ふわりふわりと漂いだした夢空間の中、激しい雷雨の音など遠くに吹き飛んでいたのだ。


 


 

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